1、2匹があっという間に…猫の多頭飼育崩壊 孤独や貧困、絡み合う社会課題

ケージの中でくつろぐ猫たち=佐世保市、陽だまりしっぽ屋

 ケージの中でくつろぐ約30匹の猫たち。多頭飼育崩壊に陥り、支援を受けたが孤独死した50代男性が残した飼い猫だった。
 健康状態が悪く譲渡先を見つけることが困難なため、ボランティア団体「長崎ねこの会」は昨年11月、佐世保市内に県内初の終生飼養シェルター「陽だまりしっぽ屋」を開設した。同会代表の尾崎佳子さん(仮名)に多頭飼育崩壊の実情を聞くと、孤独を猫で埋めようとした飼い主の姿が浮かぶ。判断する力が乏しいことと、貧困も重なっている。
 「『最初は1、2匹だったのにあっという間に20匹になった』。多頭飼育崩壊に陥った人は皆そう言うんです」。尾崎さんは落ち着いた口調で説明する。近年増加傾向にあるとも言われるが「前から多く存在していた」と指摘し、「以前は発生しても全て保健所が引き取り殺処分していたため顕在化していなかっただけ」と明かす。
 猫の繁殖力は強く、雌は生後6カ月で性成熟して1年で15匹程度生む。不妊手術をしていない雌が数匹いるとあっという間に40匹以上になる。
 多頭飼育崩壊に陥る原因には、猫の繁殖力について社会全体の認識不足がある。その上で、経済的困窮や心の問題、家庭不和、社会的孤立など社会課題が複合的に絡み合う。猫を連れて帰り、不妊手術をしないまま過ごすと1年後には数十匹になる恐れがある。20匹以上になると鳴き声や悪臭で近所の人が異変に気付くが、もう本人の力では解決できない。
 終生飼養シェルター開設の契機となったケースは、尾崎さんらが2020年から2年ほど関わった。無職の50代男性は、80代の母親と2人で佐世保市の一軒家に居住していた。男性は持病があって働けず、母親の年金で暮らしていた。猫好きの母親が2匹飼い始めたのが発端だった。不妊手術をせず繁殖を繰り返した猫たちは31匹まで増えた。荒れた家の中はふん尿のひどい悪臭が充満。母親のヘルパーがノミに刺されて大変だとケアマネジャーに連絡して状況が明るみに出た。
 市職員や同会が対応した。同会は費用を負担して不妊手術などをした。母親が施設に入所すると、男性は生活保護を受給した。だが財産管理ができないなど生活能力は乏しく、光熱費の支払いが滞った。男性はたくさんの猫を残して昨年3月に孤独死した。

多頭飼育崩壊に陥っていた男性宅の玄関=佐世保市内(長崎ねこの会提供)

 残された猫たちは適切な世話がなされていないため、完治しない病気にかかるなど健康状態が悪く、譲渡先を見つけることはできなかった。尾崎さんは熟考して31匹全てを同会で引き取ることを決意し、同会ブログで資金を集めて中古の一軒家を購入。「陽だまりしっぽ屋」を開設した。シェルターに同会メンバーが住み、仕事で不在にする昼は雇用したスタッフが面倒を見ている。新規の引き受けはしていない。尾崎さんは「費用的、労力的にも毎回はできない。多頭飼育崩壊はボランティアもつぶしてしまう」と表情を曇らせる。
 福祉関係者は多頭飼育崩壊に陥りやすい人と接する機会が多いので、福祉対象者の初期の確認事項に動物飼育と不妊・去勢手術の有無を入れてほしいと訴える。「最初の一匹の不妊ができれば不幸は起きない」と。
 現在、ワクチン接種などが終了した猫たちはケージから出て他の猫と仲良く過ごす練習をしている。近いうちに完全にケージから出して好きに過ごしてもらうようにするそうだ。尾崎さんは「普通のお家の猫さんみたいに、おいしいご飯を食べてご機嫌さんで過ごしてもらえたら、それが一番」と目を細める。


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