男子110障害・泉谷が日本新V 「努力と笑顔、変わっていない」恩師・後輩ら祝福

現地で泉谷の快挙を見守った(左から)武相高の田中監督と中学時代の恩師・上田さん=4日、大阪市のヤンマースタジアム長居

 来年夏のパリ五輪出場を目指す希代のハードラーへ、期待が高まる。4日に大阪市のヤンマースタジアム長居で行われた陸上の日本選手権最終日。男子110メートル障害で東京五輪日本代表の泉谷駿介(住友電工)=横浜市立緑が丘中、私立武相高出身=が自身が持つ日本記録を塗り替え、3連覇を飾った。世界の大台となる12秒台まで0秒05に迫る快記録に、応援に駆け付けた恩師や母校の後輩からも祝福の声が上がった。

 「最後はぶつけてしまったけど、後半はぐいぐいと伸びていた」と話すのは、緑が丘中時代の陸上部顧問・上田菊代さん(61)。現在は市立茅ケ崎中陸上部の外部指導者だが、大阪府内に住む娘の出産の手伝いもあり、現地での応援がかなったという。日本記録を100分の2秒上回る快走を目の当たりにし「本人としては12秒台を出したかったと思う。でも日本新が出てホッとした」と喜ぶ。

 上田さんの隣で観戦していたのは、武相高陸上部の田中徳孝監督(60)。2017年の全国高校総体(インターハイ)の八種競技で優勝した教え子に「努力は裏切らない。日頃から頑張っている成果を形にしてくれた」と目を細める。

 この日の決勝レースで、泉谷は8月の世界選手権(ブダペスト)の参加標準記録もクリア。昨年は準決勝で僅差ながら敗退、日本勢初の決勝進出を逃した。ただ、泉谷自身も口にするように、コンマ1秒を争う世界で伸びしろをまだまだ感じており、快挙への夢は膨らむばかりだ。

 世界に羽ばたく誇らしい先輩の姿に、緑が丘中陸上部の生徒も熱視線を送る。泉谷と同じ種目に取り組む赤井遙斗さん(2年)は「僕たちにとっては異次元の世界。まずは『おめでとうございます』と言いたい。努力を続ければ結果が出ることも教えてくれた」と目を輝かせる。

 中学最後の大会に挑む高橋和月さん(3年)も、ヒーローの激走を力に変えて日々精進している。「後半のスピードの伸びがすごい。12秒台に入ったら神の領域。先輩を目指して自分も全中(全国中学校体育大会)を目指したい」と話す。

 柔和な語り口で、絶えず向上心を失わない実直な性格。基礎を培った中学、高校を通じ、恩師2人が語る泉谷評は似通っている。上田さんは「努力をコツコツするのと、レース後の笑顔は変わらない」。田中監督は「ずっとハードルの練習をやっているところを見ていたので」と素質の高さを見抜いていた。社会人2年目に入り、心身共にさらに洗練さが増している。

 「遠くから応援しに来てくれたりうれしい気持ちでいっぱい。6月末に海外転戦をするので、結果を出して世界選手権につながるようなレースをしたい」と泉谷。大きな期待を背に、世界を驚かす夏がやってくる。

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