手足の指失っても未踏ルート次々達成…世界的な登山家、山野井泰史さんが福井で語った「恐怖」を感じない恐怖とは

未踏ルートを切り開いてきた経験を語る山野井泰史さん=6月4日、福井県福井市のアオッサ

 世界的な登山家、山野井泰史さん(58)=静岡県=の講演会が6月4日、福井県福井市のアオッサで開かれた。数々の未踏ルートを単独無酸素で制覇してきた経験を紹介しながら、「一つのミスが死につながる」と語り、常に緊張感を持ち山と向き合う姿勢を伝えた。

 中学生でロッククライミングを始めた山野井さんは、20代から北米、南米、ヒマラヤなどで単独初登頂を次々と達成。凍傷で手足の指を多く失ってからも挑戦を続け、2021年に「クライミング界のアカデミー賞」とされるフランスのピオレドール生涯功労賞をアジア人で初受賞した。

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 1994年にチベットのチョー・オユー(8201メートル)南西壁新ルートに単独で挑んだ時の極限状態の経験を、「切り立った岩壁でも恐怖心を感じなくなり、自分に危ないと言い聞かせていた」「1人なのに常にだれかがいる感覚になった」などと説明。初めて8千メートル級の難関を制し、「一つの夢が実現した瞬間だった」と振り返った。

 一方で、「荷造りは3日前までに済ませる」「国内の山でも前日は緊張で眠れない」「下山への集中を切りたくないので頂上でも笑顔になれない」と慎重な一面ものぞかせた。

 講演は、日本山岳・スポーツクライミング協会の海外登山技術研究会の一環。福井県山岳連盟が誘致し、山野井さんら日本を代表する登山家たちの海外報告に約90人が耳を傾けた。

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