<吉野ケ里石棺墓調査>石ぶたの「×」何示す 邪を防ぐ?闇を照らす? 専門家指摘「司祭者の象徴」

引き上げられた石ぶた。裏面には「×」などの記号らしきものが刻まれていた(佐賀県提供)

 吉野ケ里遺跡の「謎のエリア」で出土した石棺墓(せっかんぼ)の石ぶたに施された「×」の線刻。弥生時代に描かれた記号や絵画に詳しい福岡大人文学部非常勤講師の常松幹雄さんは「『×』は司祭者の象徴と考えられる。邪悪なものが中に入るのを防ぐ辟邪(へきじゃ)であったり、霊を封じ込めたりする願いを込めたのではないか」と読み解く。

 元々のモチーフは唐古・鍵遺跡(奈良県)から出土した弥生中期後半(前1世紀)の土器に描かれた、戈(か)といわれる武器と盾を持った人物と常松さんはみている。上半身を「▽」、下半身を「△」で表現し、これをつなげた部分の「×」が描かれるようになっていったと考える。「その姿は戦士であると同時に、稲霊(いなだま)を刺激して豊作を祈る司祭者という意味があった」と自説を述べた。

 弥生時代中期に登場した「×」は土器だけでなく、銅鐸(どうたく)の釣り手、銅剣の付け根、甕棺(かめかん)にも施された。九州、中国、四国、近畿と広く分布し、古墳時代にも魔よけの意匠として引き継がれていったという。

 一方で、石ぶたの裏側に線刻したケースは聞いたことがないといい、「漢時代の木棺墓には黄泉(よみ)の国、暗闇を照らすという意味で星座が描かれたケースがある。辟邪だけでなく、こうした天体に通じる表現も考えられる。実物を確認してみたい」と弥生人の精神性に迫る発見である点を指摘した。(大田浩司)

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