リアルイベント復活が株価に影響−−決算翌日からが上り調子の銘柄とは?

最近、アーティストのライブや、スポーツ観戦などのリアルイベントに参加したという報告をあちらこちらで耳にします。コロナ禍では、ほとんどリアルで開催することができなかったのだから、ファンにとっては何を置いても参加したいといった気持ちでしょう。

6月3日(土)〜4日(日)に開催された日比谷音楽祭では、4年ぶりに声出しや飲食ブースが解禁されたことも話題となりました。さらに7~8月はフジロックやサマソニなど、フェスなど行ったことないわたしですら知っているメジャーな音楽フェスが控えています。

ということで今回は、音楽フェスをはじめ、リアルイベントの影の立役者であるヒビノ(2469)の決算を分析します。


直近の決算は?

ヒビノは、音響設備の最大手とされる企業で、以下3つの事業を柱としています。

(1)プロ向けの音響や映像機器などを輸入販売する販売施工事業
(2)コンサートの音響、映像サービスなどを行うコンサート・イベントサービス事業
(3)建築音響に関する設計・施工を行う建築音響施工事業

コンサートなどの音響や映像を平均1日20件サポートし、音響エンジニアを200人以上抱える技術者集団です。余談ですが、わたしの自宅近くにヒビノの本社があるため、機材車らしき大きなクルマが、忙しそうに出入りしているのをよく見かけます。

まずは直近5月12日(金)に発表された、2023年3月期の決算短信を確認しましょう。

画像:ヒビノ「2023年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

①売上高41,922(百万円)、②前年同期比△1.2%、③営業利益1,229(百万円)、④前年同期比△8.2%と減収減益で着地しました。減益の理由は、コンサート・イベントサービス事業における東京オリンピック・パラリンピック特需の剥落などが挙げられています。

減益着地とはいえ、従来の営業利益予想は1,050(百万円)でしたので、17%の上振れです。3ヵ月ごとの営業利益の推移を見ると、2段飛ばしのような勢いで営業利益が回復しつつあり、減益着地のネガティブな印象は払拭されます。

2022年7-9月:59(百万円)
2022年10-12月:423(百万円)
2023年1-3月:1,366(百万円)

決算短信によると、通常1-3月はイベントなどの閑散期であり、四半期の中でも営業利益が低い時期にもかかわらず、数多くのイベントを受注し、コロナ前の業績をすでに上回ったとあります。

新年度の予想は?

新年度予想を見てみましょう。

画像:ヒビノ「2023年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

⑤売上高46,500(百万円)、⑥前年同期比+10.9%、③営業利益1,750(百万円)、④前年同期比+42.3%と、かなりの強気予想です。ただ、直近の3ヵ月間で営業利益1,366(百万円)と勢いづいているので、けして大袈裟に盛った予想値ではなさそう、むしろ物足りない印象すら受けます。

各事業部の見通しを決算説明資料から読み解くと、いちばん売上比率が高い販売施工事業は、コンサート・イベント市場、設備市場、放送市場における設備投資、流通商品の販売はいずれも上向き。また、全国各地で建設計画が進むスタジアム・アリーナ向にトータル・ソリューション販売が拡大します。売上高は前年比+10.8%、営業利益43.6%。コンサート・イベントサービス事業は、バーチャル・プロダクション市場、スポーツ市場が拡大する見込みで、売上高は前年比+7.7%、営業利益は+30.3%。

バーチャル・プロダクションというのは、仮想空間を取り入れた撮影などで、同社の直近の事例としては、有村架純さんが出演している花王「Primavista」のCM「くずれと闘う夏下地」篇が挙げられます。

また最近のスポーツイベントでは、会場や選手を移す映像は欠かせません。より会場の興奮を高め、選手のモチベーションをアップさせる重要な役割を持っているように思います。おそらくあのスピードで、瞬時に映像をスイッチさせたり、的確な情報を流すには高度な技術が必要とされ、その道で信頼のある同社が選ばれるのでしょう。顧客のリピート率80%(前年度に引き続き継続発注された2021年度の実績率)がそれを物語っています。

建築音響施工事業は、複数の都市再開発案件が進捗するほか、メディア関連の大 規模プロジェクトがスタート。さらに2024年度以降の売上となる大型案件も豊富、右肩上がりの成長を見込みます。ただし売上は+16.8%ですが、営業利益は−6.9%。資材などの値上がりが影響するのかもしれません。

いずれにしろ3事業部とも上向きで、明るい未来しか見えません。コロナ禍で大きなダメージをうけたエンタメ業界が、ここぞとばかりはじけるイメージが、わたしの脳内に広がります。

株価の反応は?

発表前までほとんど凪状態だった株価は、決算発表翌日から動意づき、竜のごとく上り調子です。

画像:TradingViewより

相場全体の環境がよいことも追い風ですが、エンタメ業界のリカバリー力への期待も大きいよう。また5月29日(月)に、いちよし証券が「“リオープン”に留まらない変革への動きを感じる」とし、レーティングをBからAに引き上げたことも、株価を一段上へ押し上げました。

ただ、過去の3ヵ月ごとの業績推移を見ると、当社は4-6月は営業利益が削られる傾向にあります。ということは、次回の決算の見た目は悪い可能性が高く、株式は売られるかもしれません。

やや過熱感があるだけに、ここから持続的に上昇していけるかどうかは、慎重に検討したいところです。

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