日系ブラジル人の子ども通う保育施設がピンチ 国の基準満たせず、支援打ち切り危機

サンタナ学園の保育施設に通う子どもたちと中田校長。「母語による保育で子どもたちを安心して預けられる場所を存続させてほしい」とし、無償化制度に伴う認可外保育施設の支援継続を求めている(滋賀県愛荘町)

 日系ブラジル人の子どもが通う滋賀県内の認可外保育施設が、国の「幼児教育・保育無償化」制度に伴う支援を打ち切られないか不安を募らせている。来年度以降も支援を受けるためには、日本の資格を持つ保育士を雇うなどの基準を満たす必要があるからだ。現場からは「言語や資金の面でハードルが高く、クリアするのは難しい」として、基準の緩和を求める声が上がっている。

 原則3~5歳児を対象に幼稚園や保育施設などの利用料を無償化する事業は2019年10月に始まった。認可外保育施設のうち、保育士の人数や広さなどの基準を満たさない施設については、国や県などが猶予期間として5年間、利用料を支援している。来年度以降も対象となるためには、県が毎年秋に行っている施設立ち入り調査で基準を満たしていると証明する必要がある。

 県内で外国籍の子どもが通う認可外保育施設は、日系ブラジル人向けに3カ所ある。計80人ほどが利用するが、いずれも基準を満たしていない。これらの施設にとって高い壁になっているのが、言葉の問題だ。

 ブラジル人学校兼保育施設のサンタナ学園(愛荘町)は、0~5歳児の22人が同施設を利用する。ブラジル人の職員たちに日本の保育士資格はない。中田ケンコ校長(66)は「ブラジル人が日本の資格を取るのは難しい。日本人に来てもらうとしても、ポルトガル語ができる必要がある」と説明する。

 同学園では、子どもや保護者の大半が日本語が不自由なため、ポルトガル語でやりとりする必要がある。不安定な雇用環境で共働きする保護者もおり、残業時は子どもを長時間預かったり、体調を崩すと近くの医者に連れて行ったりと身近に寄り添っている。

 同学園の規模だと、基準を満たすためには3人程度の保育士を雇う必要がある。昨年から日本人保育士1人にパートで来てもらっているが、経営が苦しく、人件費をこれ以上かけられないという。

 他の認可外保育施設のラチーノ保育園(東近江市)と、サントスデュモン学院(湖南市)も、日本の保育士資格がある職員を雇用できていない。

 

 こうした状況を受け、サンタナ学園を資金面などで支援するNPO法人コレジオ・サンタナ(愛荘町)は1月末、無償化の猶予期間延長や外国の保育士資格を認めるなどの基準緩和、人件費支援などを国や県に求める要望書を三日月大造知事に手渡した。

 国によると、同様の声は外国籍の子どもが通う認可外保育施設から全国的に寄せられているといい、「猶予期間を延長する可能性はあるが、まだ検討の段階」(こども家庭庁保育政策課)としている。

 サンタナ学園の中田校長は「支援がなくなると月謝の未払いが増え、さらに経営が苦しくなる。子どもを母語で保育し、安心して預けてもらえる施設の存続のため支援してほしい」と望む。

 幼児教育・保育の無償化 幼稚園や認可保育所、認定こども園の利用料を無償にする制度で、3~5歳児は原則全世帯、0~2歳児は低所得世帯が対象。認可施設に入れなかった家庭に配慮し、認可外施設についても3~5歳児は月3万7千円、低所得世帯の0~2歳は同4万2千円を上限に支援している。国はインターナショナルスクールや朝鮮学校など「各種学校」での未就学児教育は対象外としているが、滋賀県の3施設は各種学校ではなく、支援対象になっている。

© 株式会社京都新聞社