【大西利空】広瀬すず演じる“年上の女性”に惹かれる高校生を好演。映画『水は海に向かって流れる』撮影ウラ話

撮影/稲澤朝博

広瀬すずを主人公に、田島列島の同名漫画を映画化した『水は海に向かって流れる』が、6月9日(金)より公開となる。

広瀬が演じる26歳の会社員“榊さん”は、過去のある出来事から「恋愛はしない」という女性。そんな彼女が住むシェアハウスに、大西利空が扮する16歳の高校生・直達が新たな同居人としてやって来る。出会った瞬間からどこか不機嫌そうな榊さんに、最初は怯えていた直達だが、徐々に見えてくる榊さんのいろんな一面に惹かれていき、一方で、榊さんもそんな直達の存在に心を揺り動かされていく。

生後5ヶ月で芸能界入りしたという大西は、数々の作品で主人公の幼少期などを演じ、2021年公開の映画『るろうに剣心 最終章 The Final』では明神弥彦役を好演。徐々に子役から一人の役者として頭角を現してくる中、本作にて主人公の相手役という大役を務めることになった。

キャリア=年齢という大西ではあるものの、初めてのことも多く、かなりの苦戦を強いられた場面もあったと振り返る。5月に誕生日を迎え、17歳になったばかりの彼に、本作を通して感じたことを語ってもらった。

【大西利空】映画『水は海に向かって流れる』インタビュー&場面写真

すっごい大きな役でめちゃくちゃびっくりしました

撮影/稲澤朝博

――出演が決まったときの心境を教えてください。

オーディションだったんですが、受ける時は詳しい内容を知らなかったので、(決定後に)原作を読んでみたらすっごい大きな役でめちゃくちゃびっくりしました。もちろんうれしかったんですけど、驚きの方が大きかったです。

お相手が広瀬(すず)さんで、重要な役どころでもありますし、これまで自分がやってきた役とは違うと感じました。

――オーディションはどうでしたか。

紙1枚くらいの台本をやってみるという形で、監督もスタッフさんもいらっしゃったんですけど、特にプレッシャーとかはなかったです。そもそもオーディションは自分の思い描いてる形を表現する場だと思っているので。

――自分が選ばれた理由は聞きましたか。

(監督の)前田(哲)さんから何回も言っていただいたことなんですけど、僕が直達のままという感じだったって。それはすごくうれしいですし、そういうところが選ばれた理由なのかなと思います。

©2023 映画「水は海に向かって流れる」製作委員会 ©田島列島/講談社

――恋愛要素もある作品となりますが、その点はどうでしたか。

幼少期の役でそういうシーンを演じたことはあるんですが、今回のような形は初めてでした。なので経験はないし、わからなかったので、現場でやりながら、監督とお話をさせていただく中でつかんでいきました。

――撮影に入るまでは緊張もありましたか。

プレッシャーは感じていましたが、緊張はなかったです。そもそも緊張はしないタイプなんです。「頑張らないといけないな」とは思っていましたけど。

似ている部分もあれば、そうでない部分もあって、本当に半々くらい

撮影/稲澤朝博

――直達はどんな人だと思いましたか。

理不尽なことが好きではなく、とても素直でいい子だなって思いました。きれいな心を持っていて、僕もそんな直達に惹かれました。そのきれいさをどれだけ表現できるか考えました。

――自分と重なるところはありましたか。

似ている部分もあれば、そうでない部分もあって、本当に半々くらいでした。自分の想いを言葉に出すところは似ているなと思いましたし、あとはちょっと鈍感なところも(笑)。

逆にあの境遇や周りの環境は違いますし、そこは大きなところですよね。直達は年上の人に惹かれるタイプですが、僕はそうではないので、そこも違いますね。

撮影/稲澤朝博

――演じる上ではどんなことに気を付けましたか。

最初に原作を読ませていただいて、そのあと、脚本が出来上がるまでの時間に、“どんな子なんだろう?”と考えていたんです。その自分の中のイメージにどれだけ近づけられるか、上手く直達という人を汲み取って、どのくらい直達になれるか、ということを気を付けていました。

――直達はみんなの憧れでもある同級生の楓(當真あみ)から好意を寄せられているのに、年上の榊さんに惹かれていますよね。

すごく直達らしい鈍感さだなと(笑)。楓がかわいそうだなとは思っていました。

©2023 映画「水は海に向かって流れる」製作委員会 ©田島列島/講談社

――もし大西さんが直達の友達だったらどうしますか。

「もったいないな」と声をかけるとは思いますけど、直達が榊さんに惹かれているのであれば、それはそれでいいとは思います。望みは薄いのかもしれないけど(笑)、応援はします。

――直達の恋心には共感できますか。

同じ年のほうが気を使わなくて済むからそっちのほうがいいなと思います。僕自身は年上の方にそういう恋愛的な憧れは抱かないので、共感はしないかも(笑)。

――では、演じる上で、直達はなぜ榊さんに惹かれたと思っていましたか。

榊さんってちょっとつかめないところがあると思うんです。ツンツンしているかと思えば、料理を振る舞ってくれたり。そういうところに惹かれたんじゃないかと思いいました。わからないことって知りたくなりますよね。

©2023 映画「水は海に向かって流れる」製作委員会 ©田島列島/講談社

――そんな榊さんを演じる広瀬すずさんとの共演はどうでしたか。

以前からいろんな作品で見ていて、表現が素晴らしいし、本当にすごい方だと思っていましたが、実際に生で見たらもっとすごかったです。一緒にお芝居をしていて圧倒される感覚があって、気が抜けませんでした。

けど、役じゃないときはすごく明るくて気さくな方で。僕が学生なので学校の話をしたり、大人になったらこうなるよってこととかを話してくださったり、とても話しやすかったです。

高良健吾からのアドバイスは「僕の人生にとって重要な言葉」

撮影/稲澤朝博

――演じていて印象に残ったシーンは?

たくさんあります。みんなでバーベキューをするシーンはすごく楽しかったし、榊さんが作ってくれるご飯もめちゃくちゃ美味しかったです。

©2023 映画「水は海に向かって流れる」製作委員会 ©田島列島/講談社

――どれが一番美味しかったですか。

ポトラッチ丼は衝撃的に美味しかったです(笑)。びっくりしますよ。味付けはシンプルなんですが、いいお肉を使っているので。(劇中での)榊さんの作り方は乱暴ですけど、本当に美味しいです。

あと、カレーに生卵を入れるシーンもあったんですけど、僕は、カレーに生卵を入れたのが初めてで。味がマイルドになってめっちゃ美味しくて、新発見でした。

――直達と榊さんの海でのシーンはとても素敵でしたが、真冬の1月に撮影されたそうですね。

本当に寒かったです。でも水が冷たいのなか?と思っていたら、意外に温かくて。水温より気温の方が低かったみたいです(苦笑)。

水を掛け合うと濡れてしまうので、1回しか撮影のチャンスがなくてドキドキしていましたが、出来上がったものを観てみたらいい感じになっていたのでうれしかったです。大まかな動きだけ決めて、あとはカットがかかるまで広瀬さんとワイワイしてました。

――直達が榊さんに対して自分が思っていることを泣きながら伝えるシーンでは、苦戦した部分もあったとお聞きしました。

そのシーンは最初に脚本を読んだときから、直達にとっては一番重要な場面だと思いましたし、物語全体から見ても榊さんの感情に関わるので重要だと思っていたんです。

それがわかっていたからこそ考えて過ぎてしまったのと、「自分にできるかな?」という感情が沸いてしまったんです。知らぬ間にプレッシャーを相当感じていたみたいで。そう思ってしまったことが苦戦した原因の一つだったのかなと思います。

――そこからどのように切り替えたのですか。

結果的にそのシーンは1日では撮れなくて、翌日撮り直すことになったんですけど、結構、自分の中では落ち込んでしまって。そのときに、監督や(直達の叔父の茂道役の)高良(健吾)さんから励ましの言葉をいただいて、そこで切り替えられました。すごく温かくてありがたい言葉でした。

それで次の日はあえて何も考えないで現場に行きました。前日にやっているから、セリフを間違える心配もなかったし、何も気にせずにありのままの自分で直達になれたんだと思います。

©2023 映画「水は海に向かって流れる」製作委員会 ©田島列島/講談社

――高良さんからは具体的にどんな言葉を?

それは言えないです。企業秘密でやらせてもらっています(笑)。

――(笑)。では、その言葉で気持ちがどんなふうに変わったのかを教えてもらえますか。

先ほども言いましたが、明日もやるって決まったとき、本当に落ち込みました。これまでそんな経験はなかったので、ヤバイな……っていう焦りと不安とで気が重かったんです。そんなときに高良さんが声をかけてきてくださって、話をしていたら、肩の荷が下りたというか、そんなに考える必要なかったし、重く捉え過ぎてたんだなって思えたんです。

上手くいかなったのはもう仕方ないし、次の日というチャンスがあったので、そこに向けていこうという気持ちになれました。本当に一気に気持ちが軽くなれたんです。それはもう(作品としてだけではなく)僕の人生にとって重要な言葉だったと思っています。

撮影/稲澤朝博

――共演者としての高良さんの印象は?

役そのままというか、撮影以外のときでも茂道おじさんと話しているような感じでした。すごく面白いし、話しやすかったです。歳は離れているんですが、それをあまり気にせずに楽しく話せました。

僕は食べることが好きなので、食べ物とか、美味しいお店の話をよくしていました。僕の家の近くにすごく美味しい焼肉屋さんがあって、「そこに行きたいんだよね」とか。

ターニングポイントという言葉に限る

撮影/稲澤朝博

――役に対して共演者の方々からアドバイスをもらうことはありましたか。

共演者の方々とはカメラが回ってないときにいろんな話をしたんですけど、役についてで言うと、やっぱり監督です。とはいっても、そんなに多く話をしたわけでもなく。シーンごとに「こういう感じがいいんじゃないの」みたいな話をしてくださいました。

――監督やスタッフのこだわりを感じたところは?

衣装とか、セットの色味がすごく鮮やかで、細かいところまでこだわりを持って作られていました。観ていただければすぐにわかると思うんですが、すごくきれいな作品になっています。

――完成作を観たときはどう思いましたか。

恋愛が本当にきれいに表されていると思いました。それから物語の内容としては少し難しいはずなのに、それがすっと自分の中に入ってくるような感覚がありました。

僕も高校生ですが、こんな状況に巡り合うことはなかなかないとは思います。それでも楽しく観られました。コミカルな部分もあるし、出てくるキャラクターの個性も強いので、観ていて飽きないと思います。僕はは台本を読んでいるからストーリーは知っているんですが、それでも初めて観たような感覚になれました。

撮影/稲澤朝博

――直達を演じている自分自身についてはどう思いましたか。

作品を観る前って、本当に自分自身には期待していないんです。普段は高く評価しないんですが、観てみたら自分でも「直達がいる」っていう感じがしました(照笑)。これほど大きな役で、こんないい作品に携われたので、やっぱり少しでも良かったらいいなとは思っていたので、すごくホッとしました。

――本作は大西さんのキャリアにおいてどんな作品となりそうですか。

ターニングポイントという言葉に限ると思います。これから役者を続けていくなかで大事な作品になったと思います。どれだけの表現ができるかがすごく大事だと思っていたので、本当に大切な作品になりました。

経験としてもこれだけ大きな役は初めてだったので、その分、大きくなれたと思います。先ほど話した大事なシーンでの躓きから感じられたことや、知れたこともありました。これからの人生において役に立つ経験をさせてもらえた作品です。

もうちょっと大人になっておきたい

撮影/稲澤朝博

――ここからは少しプライベートな質問もさせてください。直達はシェアハウスに住んでいますが、大西さんはシェアハウスには住めそうですか。

住めるタイプです。人見知りしないし、初対面の人ともすぐに仲良くなれるので。どちらかと言うと一人でいることのほうが苦手で、みんなで一緒に何かをするほうが合ってると思います。シェアハウスしたい派です(笑)。

――どんな人たちと一緒に住んでみたいですか。

友達何人かと一緒に住みたいです。そうすると、シェアハウスとは言わないのかな(笑)。でも家に帰ったら仲がいい人がいるって、すごく安心感があると思います。それに、知らない人同士のシェアハウスだと、友達を家に呼ぶとかしにくい気がしてて。なので、友達同士でシェアハウスをして、共通の友人をたくさん呼びたいです。

――友達はどんなタイプの人が多いですか。

僕と似たような明るいタイプが多いです。学校で過ごしていると自然と似たような人が周りに集まるじゃないですか。そういう意味でも、友達とシェアハウスをしたら暮らしやすいのかなって思います。

単に話しているだけでも面白いし、スポーツをしている人も多いから、みんなで動いたりもできるし。野球とかバスケの試合を一緒に観たり、近くの公園で遊んだり、そういうのが僕は一番楽しいです。

撮影/稲澤朝博

――5月16日にお誕生日を迎えて17歳になりましたが、17歳の抱負を教えてください。

成人まであと1年で、成人になるとできることも増えるので、それまでにもうちょっと大人になっておきたいなと思います(笑)。一人でできないことが多いんです。携帯の契約とかも、どれがいいの?みたいになっちゃうから、そういう知識をちゃんと身に付けておきたいです。

あとは友達と遊ぶ。旅行もいっぱい行きたいです。行きたいところがたくさんあるんです。だからもう楽しむってことだと思います。

お仕事のほうではいろんな作品に出させていただいて、将来につながるようなものに出会えたらいいなとは思います。とにかく、全体的に明るく過ごしていきたいです。


17歳にして既に何十本もの作品に出演している大西さん。インタビューでの受け答えもとてもしっかりとしていて、さすがだなと感心しきりでした。写真撮影も季節を逆行するような寒い一日だったのですが、半袖の衣装でも一切「寒い」などと言うこともなく、素敵な表情をたくさん見せてくださいました。

そんな大西さんの演じる直達は、大人と子供の狭間にいるようなキャラクターで、その微妙な感覚をとても瑞々しくリアルに見せてくれています。メッセージ性もある作品ですが、そこも含めてすっと観る人の心に染みてくるような物語です。ぜひ劇場でお楽しみください。

ヘアメイク/Emiy スタイリング/MASAYA
衣装クレジット/ニット ¥23,100 (NKNIT)、シューズ ¥32,780 (DUSK STUDIO)、その他スタイリスト私物

作品紹介

映画『水は海に向かって流れる』
2023年6月9日(金)全国ロードショー

(Medery./ 瀧本 幸恵)

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