ディズニーの最新実写映画『リトル・マーメイド』が、2023年6月9日(金)劇場公開されます。
試写会で本編を鑑賞したディズニーマニアのライターがネタバレなしでレビュー。
完璧な実写アリエルとストーリー
『リトル・マーメイド』は、アニメーション版を何度も何度も観てきました。
ディズニーの歴史上最も優れた映画だと思っています。
好きだからこそ、実写でリメイクされると聞き、期待と共に不安も大きくありました。
アニメーション版が完璧なので、映画館でもう一度アニメーションを上映してくれればそれでいいのでは…とも思いました。
その不安は、実写版を観て一気に消え去りました。
大満足、非の打ちどころのない実写版です。
見事なアリエル表現
アリエル役のハリー・ベイリーの演技は見事です。
アニメーションで長年親しんできたアリエルその人でした。
アリエルは途中から声を失うので感情表現が難しいキャラクターです。
アニメーションと生身の人間では、感情表現の手法も異なります。
ハリー・ベイリーは、歌唱の上手さはもちろん、細かな表情や視線で、アリエルのしなやかさや芯の強さを表現しきっています。
ディズニーは『リトル・マーメイド』というディズニーの歴史を変えた作品と真剣に向き合って映画を作ったのだと思います。
ディズニー100周年の記念イヤーを飾るにふさわしい一作です。
『リトル・マーメイド』の軸を崩さない新シーン
ディズニーの実写化には大きく2パターンがあります。
『美女と野獣』のようにアニメーションとなるべく同じストーリーで進行するものと、『クルエラ』のように全く新しい解釈で描くものです。
『リトル・マーメイド』は前者のパターンで、基本的にアニメーション版と同じ展開です。
同じストーリーとはいえ、上映時間は2時間15分でアニメーションの1.5倍以上に長くなっており、新たなシーンも多くあります。
エリックがどうしてアリエルに惹かれたのか、アニメーション版では薄かった部分もしっかり描写。
アリエルも、声を失うという重要なストーリーを活用し、単に歌をエリックに聞かせられないというだけでない、ストーリーとしての魅力に昇華させています。
実写映画にする以上、細かな設定もリアルにしないと世界観が崩れてしまうため、ストーリー設定が一部変更されています。
映像面ではセバスチャンやフランダーがリアルな姿になっています。
アニメーションならではの表現もできないので、例えばオープニングでは、アニメーション版では船から獲った魚が逃げ出す形で海の中へとカメラが移動していきますが、実写版ではグリムズビーが物を落とす形でカメラが海へ入っていきます。
このように、アニメーションでないと難しい表現を廃しながら、なるべくアニメーション版を踏襲し、なおかつ変更点もその後の展開に活きるという難しいことをやってのけています。
変えた部分や増やした部分はありながらも、『リトル・マーメイド』が描いてきた軸からブレることはありませんでした。
自分が大好きな作品が大切に扱われて幸せです。
ディズニーを、『リトル・マーメイド』を好きでいて良かったなと心から思います。
圧巻の音楽シーン
ストーリーもさることながら、重要なのは歌です。
『リトル・マーメイド』の良し悪しは「パート・オブ・ユア・ワールド」で決まるといっても過言ではありません。
そこは製作側も意識しているようで、誰がパート・オブ・ユア・ワールドを歌うべきかでアリエルをキャスティングしたとも語っています。
ハリー・ベイリーは見事にパート・オブ・ユア・ワールドを歌い上げています。
特に、パート・オブ・ユア・ワールドのリプライズは圧巻です。
アリエルのしなやかさと芯の強さが一曲の中に凝縮されている、素晴らしい歌唱でした。
アニメーション版『リトル・マーメイド』は、第二次黄金期の幕開けとなった作品でした。
『リトル・マーメイド』がミュージカルアニメーションの時代を切り開き、『美女と野獣』や『アラジン』に繋げていきました。
最初期でストレートにミュージカルを描くことに振り切れていないこともあり、アニメーション版では歌の途中でちょこちょこ第二次黄金期特有のギャグが入ってくることがあります。
パート・オブ・ユア・ワールドでも、セバスチャンのドタバタが入っています。
その点、今回はストレートに歌唱だけを行っており、ミュージカル映画が広まった時代の良さがあります。
茶々が入らないながらも、そこで補っていたストーリー進行はきちんと他の部分で補完されており、抜かりありません。
名曲たちをストレートに楽しめます。
新曲は3曲
実写版のために制作された新曲は3曲あります。
どれもアラン・メンケンが作曲し、作詞は『モアナと伝説の海』や『ミラベルと魔法だらけの家』のリン・マニュエル=ミランダです。
彼は『メリー・ポピンズ リターンズ』にジャック役で出演し、ロブ・マーシャル監督と関わった経験もあります。
一部は歌詞がアップデートされていますが、細かな変更部分もリン・マニュエル=ミランダが手がけている贅沢っぷり。
リン・マニュエル=ミランダの歌詞からも、ハワード・アシュマンへのリスペクトをひしひしと感じます。
ハワード・アシュマンの歌詞をリン・マニュエル=ミランダがアップデートさせる、まさにディズニー100周年にふさわしい継承です。
映画を観終わって、当然パート・オブ・ユア・ワールドをはじめアニメーション版の名曲が耳に残っていますが、新曲も耳に残っているほど良い曲でした。
吹替も心地よい
字幕版と日本語吹替版の2パターンを鑑賞しましたが、どちらも甲乙つけがたいものでした。
『リトル・マーメイド』は、ディズニーの実写化映画でときどきある「プレミアム吹替版」と銘打たれたものです。
吹替声優の知名度やタレント性よりも、声の技術や歌の上手さを最優先してキャストが選ばれています。
アリエル役は、ミュージカルで活躍し始めている豊原江理佳さん。
他に、エリック海宝直人、セバスチャン木村昴、トリトン大塚明夫、アースラ浦嶋りんこ、スカットル高乃麗というメンバーです。
最近のディズニーの主人公声優を発掘する能力の高さには驚かされますが、豊原さんは映画や声優経験はないものの、ミュージカルで活躍されており新人ではありません。
一度観ただけで、歌声はもちろん、セリフもすっかりアリエルの声として馴染んでいます。
そして、『リトル・マーメイド』吹替版の最大の特徴と言えるのが、歌唱シーンの歌詞です。
実写でプレミアム吹替版として公開された『美女と野獣』や『アラジン』では、吹替時にオリジナルの訳詞が付けられました。
アニメーションやパークで何百回も日本語歌詞を聴いていると、どうしても脳内でこれまでの歌詞が流れてしまい新訳に違和感が出てしまいます。
その点、『リトル・マーメイド』は歌詞を現在のアニメーション版と同じにしているため、聴いている際の心地よさを感じます。
もちろん、英語の歌詞が一部変更されているため、日本語も少し変わっていますが、耳心地の良さは格別です。
耳心地の良さに加えて映像に没入できる吹替版も必見のクオリティです。
IMAXで観てほしい
実写版『リトル・マーメイド』はIMAX対応の作品です。
通常のスクリーンに比べて上下が広がるIMAXシーンが一部のシーンで取り入れられています。
海の中や『リトル・マーメイド』の世界により没入できます。
ただ、公開2週目の2023年6月16日(金)からは、アメコミの2大注目作『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』と『ザ・フラッシュ』が公開されます。
IMAXやドルビーシネマでの『リトル・マーメイド』上映はかなり減ることが予想できます。
なるべく早く、1週目に劇場へ行くことを強くおすすめします。
この原稿の執筆時点ではどのような公開規模になるかわからない状態ですが、字幕or吹替で選ぶより、スクリーンのスペックで選ぶ方を優先した方が楽しめると思います。
ともかく、ディズニープラスに来るのを待つのではなく、劇場で観ることを強くおすすめする作品です。
『リトル・マーメイド』は、2023年6月9日(金)から映画館で公開。
傑作です。
(ウレぴあ総研 ディズニー特集/ 林田 周也)