信頼の輪広げ、難工事成功 くろよん60年講演「黒部の太陽」モデルの男

黒部ダムの資料写真を紹介し、難工事を成し遂げた笹島氏について語る大田氏=黒部市芸術創造センターセレネ

  ●元熊谷組社長・大田氏が笹島氏語る

 くろよん完成60周年記念講演「映画『黒部の太陽』のモデルとなった男」は8日、黒部市芸術創造センターセレネで開かれ、元熊谷組社長の大田弘氏(70)=宇奈月町明日=が黒部ダム建設に伴うトンネル工事を指揮した笹島信義氏=入善町出身=を語った。公私ともに親交があった大田さんは笹島氏の人間的魅力を挙げ、「彼を中心に信頼の輪が広がり、不可能と言われた難工事を可能にした」と指摘した。

 日本を代表するダムの一つ黒部ダム(立山町)は60年前の6月5日に竣工した。完成まで7年を要し、延べ1千万人が建設に携わった大工事だった。熊谷組は建設資材を輸送する関西電力大町トンネルを含む工区を担当、2017年に99歳で死去した笹島氏はトンネル工事の下請けとして「笹島班」を組織し、軟弱地層「破砕帯」を突破する工事を成し遂げた。

 大田さんは笹島氏が「人集め、人を使うことの天才だった」とし、危険が伴う作業に冷害に悩む農村地帯を回って1日1升の白米、賃金の7割は家元に送る条件で出稼ぎ希望者約1500人をリクルートしたと紹介した。

 破砕帯にぶち当たって大量の冷水が噴き出し、3カ月も掘削が進まなかった際、当時の太田垣士郎関電社長が現場の最前線を視察、その後、工事続行を決断し、笹島氏宛てに激励はがきを出したことで「笹島親方は太田垣親分にほれ込み、笹島班の士気も再度高まった」と解説。最終的に2年がかり5千メートルのトンネル工事完成につながったとした。

 黒部ダム完成について、笹島氏が生前、「事業者、元請け、下請けの3者が一体となって、信用と信頼の輪が結ばれたからこそなし得た」と語っていたと紹介した。その上で大田さんは「くろよんが残したのは人の思い、志の連鎖だ」と締めくくった。

 約200人が聴き入り、笹島班に加わっていた元田弘さん(88)=入善町笹原=が最後に「笹島班長も草葉の陰で喜んでいる」とあいさつした。

 黒部市宇奈月温泉開湯100周年事業実行委員会が主催した。

 

  ●日本画家の田淵氏、100周年で5作品寄贈

 黒部市宇奈月温泉開湯100周年事業実行委員会は8日、市芸術創造センターセレネで開かれ、100周年とセレネ開館30周年を記念して日本画家の田淵俊夫氏が作品5点を同市に寄贈することが報告された。18日に行われる「開湯100周年のつどい」で作品を披露、市長感謝状を田淵氏に贈る。

 田淵氏は東京芸大名誉教授で、日本美術院代表理事。日本画の巨匠・平山郁夫氏に師事し、セレネ開館に合わせて黒部峡谷を題材にした作品を手掛け、同美術館に所蔵、展示されている。今回、寄贈するのは2004年の二曲一隻屏風「黒部心象 奥鐘山」、20年の四曲一隻屏風「竜門の滝」などとなる。つどいは18日午後2時からセレネで行われる。

 会合ではクラウドファンディングで設置する100周年記念時計台の方向性などについて意見交換した。

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