社説:マイナ一本化 凍結して抜本見直しを

 多くの国民の不安をよそに、2024年秋に健康保険証を廃止してマイナンバーカードに一本化する関連法が国会で成立した。

 だが新たなトラブルの発覚が後を絶たない。マイナンバーと公的給付金の受取口座をひも付ける際、本人ではなく家族や同居人らの名義の口座を登録したとみられるケースが約13万件あったことがデジタル庁の調査で分かった。

 制度の危うさはだれの目にも明らかだ。このままカードの用途拡大に突き進めば、さらに問題が噴出しよう。いったん立ち止まり、根本から見直すべきだ。

 別人の登録は振り込み遅れなどにつながるとしている。ひも付けできるのは本人名義の1人1口座だが、預貯金口座を持たない子どもは多く、小さければ親が管理したいと考えるのが普通である。それを想定した設計になっていないのはお粗末過ぎる。

 さらに問題なのは、同庁がこうした事例を今年2月に把握していながら、公表しなかったことだ。カードの取得率アップを図るポイント事業で普及ばかりを優先し、信頼性を軽視したと言われても仕方ない。

 全くの他人の口座が誤登録された可能性が高い事案も748件確認された。自治体での登録作業で起きたとはいえ、これだけの数の多さはシステム上の欠陥と言わざるを得ない。片仮名の銀行口座名との本人照合が難しい問題も明らかになっている。

 今回の調査の前にもトラブルは続出していた。とりわけ深刻なのは、マイナ保険証で他人の情報がカードにひも付けられていた問題だ。約7300件に上り、一部は閲覧されていた。医療に重大な影響を及ぼしかねない。

 ところが、政府は事態を重く受け止めているように見えない。河野太郎デジタル相は「イレギュラーな操作をしなければ(他人の口座は)登録できない」と責任転嫁するかのようだ。

 次々と問題が浮上しているのに十分な審議もせず、関連法を成立させた与党や日本維新の会など一部野党ともども無責任が過ぎる。現場で利用者と向き合う自治体などの疲弊が増すばかりではないか。

 政府はシステム修復を進めるが、小手先でトラブルが根絶できるとは思えない。

 26年中にもセキュリティーを強化した新カードに刷新するというなら、最低限でもそれまでは拙速なマイナカードの一本化は凍結すべきだろう。

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