初のル・マン帯同にも冷静な宮田莉朋が感じた日本との違い。来季の国内レース参戦は「分からない」

 先ごろ、TGR WECチャレンジドライバーに選出された宮田莉朋が、ル・マン24時間走行初日となった6月7日から、トヨタGAZOO Racing WECチームに帯同を開始した。将来のWECドライバーを目指す宮田に、ル・マンの雰囲気、そしてWECチームの仕事の進め方は、どう映ったのだろうか。8日午後のセッション開始前、ドライバー勢のメディアセッションに姿を見せた宮田に話を聞いた。

 7〜8歳の頃に観光でル・マンには訪れた経験があるという宮田だが、レースウイークのル・マンは今回が初体験。今年は100周年記念大会ということもあって例年よりはるかに多い観客が詰めかけ、レースウイーク前半から会場や市内の熱量が上がっているのだが、宮田は「あまり緊張することなく、この場にいられていますし、普通にやることができているので、問題ないかなと思っています」と飄々と語り、浮足立つ様子もなく、極めて落ち着いている。

 宮田はコースサイドやパドックを出歩くといったことはなく、常にチームと行動を共にし、早く溶け込もうとしているようだった。

 走行初日となった7日は、FP1、予選、FP2の3セッションが行われたが、宮田はセッション中、7・8号車双方の無線を聞きながら、セットアップの進め方などを間近で体験。その帯同初日について宮田は「日本のレースと比べて、特別何かが違うとは感じませんでした」と冷静に振り返った。

「日本と違うなと思ったのは62台という参戦台数の多さで、それによって8号車は(予選で)なかなかクリアラップが取れなかったりしましたが、そこが唯一感じた違いですかね」

 WECのピットではテレメトリーデータやマシンの車載映像がリアルタイムで確認できる。この部分も、なかなか興味深かったようだ。

「日本だと走り終えてからデータを吸い取って、ようやくデータを見られるわけですが、日本もこうなってほしいなと思いました。いま、(スーパーGTやスーパーフォーミュラの)レースウイークのプラクティスは90分程度しかありませんから、リアルタイムでテレメトリーをピット側で見て、何が良い・悪いというのを判断できればスムーズですよね。あとはWECだと(車両に)GPSがあるので、『いま後ろはアタックしている』『前にどんなクルマがいる』と分かるのもいいですね」

 ハイブリッドシステムを搭載していることから、マシンのセットアップする際のアイテムが多く複雑でもあるGR010ハイブリッドだが、「僕は結構いじるのが好きな方なので、『やってみたいな』というものが多いですね」と宮田は想像を膨らませている。

「WECはひとつひとつの単語が特別な呼び方になっているので、そこを把握するのがまず第一だと思いますが、そこも僕は去年(TGR-Eの)シミュレーターでちょっと経験できています。あとは『これがいいんじゃないか』というオーダーができるようになれば、と思っていますが、そこは慣れも必要なので、無線を聞きながら『あ、いまこれやっているんだな』というのを理解していけばいいかなと思います」

 中嶋一貴TGR-E副会長は「来年以降は海外での実戦的な経験を積んでもらるように」準備したい考えを明らかにしているが、もちろん宮田本人もそれを望んでいる。もし日程がバッティングするようであれば、日本のレースよりもヨーロッパでの活動を優先したい意向だ。

「僕はもう、そのつもりでいます。日本とヨーロッパのレースを両立させるのが難しいのは分かっていますし、僕くらいの年齢のドライバーって、(世界を)目指すのか、日本で活躍し続けるのか、という葛藤が生まれると思います。ただ、海外に行ったことあるドライバーがそれを葛藤するのは理解できるのですが、行ったことがないドライバーが『いやぁ、海外は……』と言うのはすごくもったいないと思うし、逆にいまはたまたま僕がWECのプログラムに近いところにいて、それを逃したら次はないと思っていましたから」

「来年以降、どういう形で日本のレースをするのか、あるいはできないのか分かりません。いろいろな方に迷惑をかけるかもしれませんが、僕は『世界でやりたい』と思って日本でずっと頑張ってきたので、『日本のレースができないから、海外は嫌だな』という思いはまったくないですね」

TGR WECチャレンジドライバーに選出された宮田莉朋

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