怒りと落胆「どうなってしまうのか」…改正入管法成立、埼玉のクルド人ら迫害に恐怖「せめて子だけでも」

日本語の勉強をするトルコ国籍のクルド人男性=5月28日午後、川口市

 9日に参院本会議で可決、成立した改正入管難民法は、難民申請中の強制送還停止を原則2回に制限する内容だ。入管施設の長期収容解消を図る一方、本国で迫害を受ける恐れのある外国人にとって強制送還は生命の危機に関わる。「人権侵害を見過ごすのか」「子どもだけでも日本に」。難民申請中であるものの在留資格がなく、収容を一時的に解かれた「仮放免」のクルド人とその支援者らからは憤りと落胆の声が上がった。

■手紙に託した思い

 「周りにも自分と同じような人がたくさんいる。これからどうなってしまうのか、想像したくない」。埼玉県川口市で暮らすトルコ国籍のクルド人男性(40代)はため息をついた。改正法成立の知らせを聞いても落ち着いた様子を見せていたが、声色には不安と怒りが見え隠れしていた。

 男性は現在2回目の難民申請中。改正法下では今回の申請が却下されて次回の申請を行えば、いつ強制送還の対象になってもおかしくない。男性は過去にトルコ国内でクルド人の新年を祝う祭りに参加してスピーチをしたとして、現地警察に連行され暴行を受けたり「トルコ人になれ」と言われた。その後も迫害は続き、家族とともに日本に逃れたという。当時長女は生後4カ月で、長男は日本生まれ。今は妻を含め家族4人全員が仮放免だ。

 男性は数年前から日本語教室に通い始めた。毎週末、欠かさずに午前と午後で教室をはしごして、自宅で自習もしている。自身の状況について、入管職員らに直接自分の言葉で訴えたかったからだ。5月4日には、川口市内などで暮らすクルド人らの視察を行った参院議員に、改正の再考を求めて日本語で直筆した手紙を渡した。しかし「おねがいします」と文末に書いた訴えは届かなかった。

 過去に迫害を受けたクルド人は、強制送還されれば再び身の危険にさらされる。男性が最も懸念しているのは日本で育った2人の子どもの将来だ。同じように現地で差別の対象になる可能性は高い。「私が送還されるのであれば、せめて子どもたちだけでも(日本に)残してほしい。子どもたちに自分と同じ思いをさせたくない」

■子どもが危険に

 法改正の審議では、日本で育った子どもたちに法相の裁量で在留資格を認める「在留特別許可」(在特)に関して、付与の有無が争点の一つとなっていた。斎藤健法相も支援に関心を示していたものの、具体的な対策については明言を避けた。

 入管庁のガイドラインでは、日本で生まれたり、日本の学校に通う子どもを考慮して在特を検討することとなっているが、強制送還処分対象で帰国を拒む外国人4233人(昨年末時点)のうち、日本で生まれた18歳未満の子どもは201人に上った。

 川口市や蕨市などで暮らすクルド人らを支援する「在日クルド人と共にHEVAL」によると、同市内などには少なくとも数十人の仮放免中の子どもがおり、すでに複数回難民申請をしている子どももいるという。温井立央代表は改正法が施行されれば、強制送還の対象になる恐れがあるとして「子どもに関すること以外にも多くの問題を抱えながら無理やり成立した改正法に憤りを感じる。人権侵害を見過ごすのか」と嘆いた。

■クルド人

 公用語はクルド語。居住地域は、第一次世界大戦後に現在のトルコやイラン、イラク、シリアなどに分裂し「国を持たない最大の民族」とも呼ばれる。少数民族として差別や迫害を受け各国に逃れたが、日本国内では難民として認められたケースはほとんどない。県内では川口市や蕨市などに約2千人が暮らしているとされているが、その大半に在留資格はなく、一時的に出入国在留管理庁での収容を解かれた仮放免状態。

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