牛腸作品の奥深さ迫る 県美術館、「前衛」写真の精神

牛腸のドキュメンタリー映画を鑑賞する来館者=富山市の富山県美術館

  ●ドキュメンタリー上映

 富山新聞創刊100年記念の企画展「『前衛』写真の精神:なんでもないものの変容」(富山県美術館、富山新聞社、北國新聞社など主催)は10日、富山市の同館でドキュメンタリー映画が上映された。映画は出品者の一人である写真家・牛腸(ごちょう)茂雄の人物像に迫る内容で、来場者はスクリーンや展示作品を通して、牛腸作品の奥深い世界に触れた。

 牛腸は技巧を凝らさず誇張なしに撮影した「コンポラ写真」の代表的な一人。代表的な写真集と同名の映画「SELF AND OTHERS」(2000年製作)が上映された。

 写真作品や、牛腸が姉に宛てた手紙のほか、撮影場所の映像が紹介され、鑑賞した名古屋市の大学教員小倉悠輝さん(33)は「何げない日常の写真から、個人の物語が感じられた」と語った。

 冒頭、企画展を担当する八木宏昌学芸課上席専門員は「牛腸作品からは、写真の方から見詰められる独特の視線が感じられる。若くして亡くなったが、最近またブームになっている」と紹介した。

 牛腸は1946(昭和21)年、新潟県加茂町(現加茂市)で生まれた。幼少期に患った骨の病気で障害があり、83年に36歳で亡くなった。自費出版した写真集「SELF AND OTHERS」では、友人、家族、入院先の病院で出会った人らが被写体となっている。牛腸は自己と周囲を取り巻く人々(他者)を通じてあらわになる「自己の生への回帰」を試みたという。

 企画展では、牛腸のほか、富山市出身の詩人・美術評論家瀧口修造、作家の阿部展也、写真家の大辻清司の作品を中心に、前後期合わせて計約650点を展示する。前期は27日まで。後期は29日~7月17日で、大幅に展示替えする。7月1日には講演会「大辻清司の実験室」、同9日には写真家高島史於さんのトークショーが行われる。

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