<書評>『古琉球の王宮儀礼とおもろさうし』 権力との関係 より具体的に

 おもろや『おもろさうし』について、熟知とはいえないまでも、教養程度に知っている人は多い。

 それは、主に文学的な研究がもたらした知識で、おもろは神女が唱えるものでそれゆえ琉球の女性の地位は高かったとするおなり神信仰の根拠となった。

 一方、おもろ主取りなどおもろは王府内で男性職員の領域である。おもろが王府儀礼に関わる性別分業に至った変遷を解明したことが本書の功績である。

 おもろ研究家真喜志瑶子はおもろをめぐる既存の常識を、伊波普猷に始まるあまたの研究者の説を分析した上で疑問点を指摘し筆者の見解を述べ最終章では「オモロとは何か」を結論づけている。

 つまり、過去の研究(通説)・今日から見た問題点・筆者の結論を未来へつなぐという展開は、この1冊だけで百年余を経たおもろ研究の概略を知ることができる。沖縄、本土、ヨーロッパと引用する研究者もおおよそ110人と研究の幅広さを改めて感じさせた。

 真喜志は古琉球の王宮儀礼という民族的な角度からおもろを読み解くために、『久米島旧記』『仲里旧記』『君南風由来記』など、首里が討伐し支配下に組み込む以前の久米島の史料を用いたことで、権力とおもろの関係をより具体的に解明した。

 たとえば、おもろには新旧2種があり、首里に服属した久米島のヒキ集団(父系による血縁的関係集団)は、王宮の防備に当たり、石垣、道、植林、築城などの職務と役割を与えられた。この久米島ヒキ集団の勢頭(統率者)が唱したのが王宮儀礼歌のおもろで、新しいおもろである。

 また、王宮の稲まつりにも新旧二つがあり、古い時代のまつりでは神女が唱え、男性による王宮儀礼として新しいおもろが生まれたと説明している。古来の稲まつりを言祝(ことほ)ぐ神女は祖先崇拝につながると。

 本書は2022年冬に刊行された。同年に、刊行された琉球文学大系『おもろさうし』が研究に加わっていたならば、どのような展開になっただろうか、とさらにおもろの世界へ関心が深まった。

(大城道子・女性史研究者)
 まきし・ようこ 1939年東京都生まれ、法政大沖縄文化研究所国内研究員。主な論文に「キンマモンの神とその成立をめぐって」など。

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