スペイン代表は始動したけど…/原ゆみこのマドリッド

[写真:©︎RFEF]

「他人事すぎて、どっちが勝ってもいいっていうか」そんな風に私が達観していたのは土曜日、CL決勝マンチェスター・シティvsインテル戦はTVE(スペイン国営放送)が中継するため、夜には自宅で見られるのに気がついた時のことでした。いやあ、昨年などは4年ぶりにレアル・マドリーがファイナリストとなったため、決勝当日は昼間からパリで何が起こっているのか、ずっと追っていたものですけどね。それが今季の彼らは準決勝でシティにリベンジを喰らい、グループリーグで敗退したアトレティコ、バルサは言わずもがな。セビージャもグループ3位で回ったELで先週、一足先にSeptima(セプティマ/7回目の優勝のこと)を達成してしまったため、スペイン勢には無縁のCL決勝となり、盛り上がっていないのは私だけではないんですが…。

え、それでも先週末のリーガ最終節終了後、4日間のお休みを挟んで、いよいよ金曜からはスペイン代表合宿がラス・ロサス(マドリッド近郊)のサッカー協会施設で始まったんだろうって?その通りで、私も3月に続いて、初日の夕方、一般公開となったセッションを見に行っては来たんですが、もちろんメイングランドのスタンドは子供連れのファンを中心にほぼ満員。とはいえ、今回は事前に整理券を配布したせいか、入口に長蛇の列もなく、ゴール裏の壁の上に人が鈴なりになって見学するまでの大盛況ではなかったかと。

それもこれも昨年のW杯でGKボノ(セビージャ)の守るモロッコにPK戦で破れ、16強敗退をしたルイス・エンリケ監督が退任。その後を継いで、U21から昇格したデ・ラ・フエンテ監督が指揮を執る初陣として注目された3月のユーロ2024予選では、ハーランド(マンチェスター・シティ)のいないノルウェーに3-0と快勝して白星スタートを切ったものの、2戦目はスコットランドに2-0であっさり敗戦しちゃいましたからね。すぐさま新監督の先行きに暗雲が立ち込めてくる辺りはA代表あるあるなんですが、6月のインターナショナルマッチウィークでスペインが挑むのはネーションズリーグ・ファイナルフォー。

一応、トロフィーの懸かった大会とはいえ、W杯やユーロに比べると見劣りするのは当然ですが、デ・ラ・フエンテ監督は招集メンバーの3分の1程をごっそり入れ替え、何と今回はチームの平均年齢が31才にもなるベテラン中心に。いえまあ、2020年10月以来の復帰となる37才ヘスス・ナバス(セビージャ)はEL決勝ローマ戦でも同点となる敵のオウンゴールを招くクロスを入れ、ブダペストで優勝カップを掲げていますからね。ビッグマッチで頼りにしたくなるのもわかりますが、その彼と一緒にこの火曜、ベニト・ビジャマリンに大勢のゲストを招き、華々しく開催されたホアキンの引退記念試合に代表合流を控え、その日はプレーはせず、ベンチ見学参加していた、こちらも久々に招集されたカナレス(ベティス)もすでに32才。

ちなみにその試合、ベティスとリーガ・レジェンドの現役、OB混合チームが対戦したんですが、カシージャスやセルヒオ・ラモス(PSGを今季限りで退団)ら、懐かしい顔が見られたのは嬉しかったものの、ホアキンとは2002年W杯日韓共催大会スペイン代表でご一緒。現在はRMカスティージャの監督を務め、先週末に2部昇格プレーオフ準決勝1stレグでバルサBに4-2で負け、この日曜にはエスタディオ・アルフレド・ディ・ステファノで根性のremontada(レモンターダ/逆転劇)カンテラ版をやらないといけないラウールもプレーしていたのにはちょっとビックリさせられたかと。まあ、このミニクラシコで頑張らないといけないのはアルバロ・ロドリゲスら選手たちですから、監督がセビージャ日帰り弾丸遠征しても別に大丈夫なんでしょう。

その一方で同じ火曜、東京で行われたバルサとヴィッセル神戸の親善試合ではガビと、リーガ最終戦で負傷したニコ・ウィリアムス(アスレティック)の代わりに追加招集されたアンス・ファティがプレーしていましたが、彼らはすこぶる若いので問題はまったくなし。デ・ラ・フエンテ監督の招集リストが出る前にケガしたバルデの代わりには34才のジョルディ・アルバ(今季限りでバルサを退団)が戻り、やはり最後の試合で負傷したダビド・ガルシア(オサスナ)の代わりには、今回は落選していた33才のナチョ(レアル・マドリー)が追加招集と、こんな具合でチームの平均年齢が上がっていったんですが、いやあ。

一応、地元マドリッドのチームの選手として、ファンからコールを受ける回数は多いんですが、キャプテンこそ、今回はジョルディ・アルバに譲ったとはいえ、またしてもスペインのCFは30才のモラタ(アトレティコ)ですからね。その彼は日曜にビジャレアル戦を済ました後、イタリアのビーチリゾートで4日間を過ごし、金曜にマドリッドに戻った足でメトロポリターノに直行。2026年までとなる2年間の延長契約にサインして、午後1時にはラス・ロサスに到着という慌ただしさ。もう1人のCFもチームは2部降格しながら、今季16得点でサラ(スペイン人選手の得点王)を獲得した33才のホセル(エスパニョール)となれば、あまりgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)勝利は期待できないかも。

そんな感じですから、金曜の公開練習で選手たちがロンド(輪になって中に入った選手がボールを奪うゲーム)やサッカーテニスを和気藹々と楽しんでいるのを私もちょっと冷めた目で眺めていたんですが、この先、火曜まで続くラス・ロサスでのセッションは全てcerrado(セラードー/非公開)って、やっぱり3月の試合後の批判が影響した?チームの方は火曜の夕方にオランダのエンスヘーデに向かい、木曜には今週かなり早い時期から、サルディーニャ島で合宿を始めていたイタリアと準決勝で対戦。もう1つの準決勝をプレーするクロアチアとオランダのどちらかと、日曜に決勝か3位決定戦をプレーすることになるんですが、彼らが最後の優勝を遂げたユーロ2012からもう11年も経っていますからねえ。そろそろまた、強いスペインを見せてもらいたいものですが、果たしてどうなるんでしょうか。

そしてマドリッド勢の近況もざっと伝えておくことにすると、アトレティコではモラタ以外、まだ目立った動きはなし。いえ、2024年に契約が終わるコケやエルモーソなども延長交渉が予定されているはずなんですけどね。代表非招集組の彼らの夏は長いため、急ぐ必要もないというか、肝心の補強選手も確実そうなのは今季2部に降格したレスターシティから、自由契約でCBソユンンジュが入るというぐらい。うーん、前線に関してはとにかく、レンタル移籍していたチェルシーでポチェッティーノ新監督に戦力外扱いにされ、嫌々戻って来るジョアン・フェリックス、バルサが1900万ユーロ(約29億円)の買取オプションを持っているものの、行使するかしないかわからないカラスコらの先行きがはっきりしない限り、身動きが取れませんからね。

同時にサムエル・リノ(バレンシアにレンタル移籍)、リケルメ(同ジローナ)、マヌ・サンチェス(同オサスナ)、カメージョ(同ラージョ)、ジュリアーノ・シメオネ(同サラゴサ)ら、修行に出ていた選手たちもまだ来季、戻って来るのか不明なんですが、それと対照的なのがお隣さん。ええ、今週は金曜には弟分のラージョが所有している50%分の権利に当たる500万ユーロ(約8億円)を払って、カンテラーノ(RMカスティージャ出身の選手)の左SBフラン・ガルシアを獲得したかと思えば、翌日にも3年間、ミランにレンタル移籍していたブライムの帰還が決まり、来週月火にはバルデベバス(バラハス空港の近く)の練習場で入団プレゼンがあるのだとか。

更にクラブの公告はまだですが、水曜にはドルトムントがベリンガムのマドリー移籍を発表し、ずっと噂になっていた19才の才能余りあるMFも移籍金1億300万ユーロ(約155億円)で加わることになりましたしね。ただ、リーガ最後の週にベンゼマ、アセンシオ、アザール、マリアーノと大量4人の一斉退団が決まったFW陣の補強はまだ手付かずで、うーん、アンチェロッティ監督はハリー・ケーン(トッテナム)推しらしいんですけどね。あのクラブとの交渉は、ベイルやモドリッチの例を見てもいつも時間がかかりますし、あと契約が1年しか残っていない選手に1億1600万ユーロ(約174億円)もの移籍金を払うのも法外なため、こちらはしばし様子を見守るしかないかと。

そして弟分ではラージョがかなりチーム離散状態になっていて、フラン・ガルシアが古巣に戻る以外にも今季のレギュラーCBコンビ、ルジューヌとカテナが去ることに。前者は元々、昨季2部に降格したアラベスからの1年レンタル移籍で、ええ、昇格プレーオフ決勝にルイス・ガルシア監督のチームはエイバルを破って進出し、レバンテにも勝てば、大手を振って、来季も1部でプレーできますからね。契約満了の後者は金曜にオサスナ入団が発表され、7位でコンフェレンスリーグ出場権を獲得したチームに行ったんですが、実は最近、2013年に受けた八百長嫌疑でクラブ元幹部が有罪判決を受けたため、UEFAが大会参加を認めないんじゃないかという話も。

ただ、そうなっても繰り上りでヨーロッパの大会に出られるのは8位のアスレティックですからね。11位で終わったラージョはお呼びじゃありませんし、それより彼らには他にも契約が満了する選手がコメサニャ、ファルカオ、マリオ・エルナンデス、サベリッチ、マリオ・スアレス、ディエゴ・ロペスと大勢いるから、さあ大変!まあ毎年、補強が終わるのは遅めなクラブではありますけどね。せめてイラオラ監督の後任となる指揮官だけはなるたけ早く決めないことには、チーム構想にも支障が生じてしまうのでは?

え、弟分仲間のヘタフェもまだ、最終節のバジャドリー戦をボールポゼッション20%、パスたったの64回という超守備的サッカーで引分け、瀬戸際で1部残留を達成したボルダラス監督が続投するか、わからないんだろうって?その通りで当人は先日、ラジオのインタビューで「Mi idea es poder entrenar un equipo con objetivos más ambiciosos/ミ・イデア・エス・ポデール・エントレナール・ウン・エキポ・コン・オブヘティーボス・マス・アンビシオーソス(もっと野心的な目標のあるチームを率いるのが私の考え)」と言っていたんですけどね。

といってもそんな上級チームの指揮官の椅子がそうそう、残っている訳でもなし。ヘタフェを愛しているボルダラス監督は、「No digo un 'no' rotundo, habrá tiempo de hablar/ノー・ディゴ・ウン・ノー・ロトゥンドー、アブラ・ティエンポー・デ・アブラル(絶対にノーとは言わない。話す時間はあるだろう)」とフォローもしていたため、もしや来週火曜の新ユニフォーム発表プレゼンではアンヘル・トーレス会長から、いいニュースが聞けるかも。

その他、選手に関しては、エースのエネス・ウナルがシーズン終盤にヒザを靭帯断裂。来年まで戻って来られず、ムニルも契約が終わるため、現在、マタとボルハ・マジョラルだけとなってしまったFW陣を兄貴分のマドリーからレンタルしていたラタサの買取オプションを行使して補強することだけは決まったようですが、まあこちらも予算の関係で、移籍市場を時間をかけて吟味するクラブですからね。ボルダラス監督の続投が決まったら、降格したエルチェのボジェを獲りにいくとか、マドリーを退団したマリアーノを狙っているとか、今はまだ噂程度の話しか出ていないため、この辺はもっと暑くなってからのお楽しみにしましょうか。

そうこうするうち、CL決勝が終わり、後半23分にアトレティコ出身のロドリが挙げたゴールでマンチェスター・シティが1-0と勝利して悲願の初優勝を達成。いやあ、彼は金曜のスペイン代表練習でラポールと共に唯一、合流が遅れている選手の1人だったんですが、これは相手が5人もイタリア代表招集選手がいるインテルだったたけに、ネーションズリーグ・ファイナルフォー準決勝に向けて、大きな励みになるかと。気になるのは今季3冠をマンチェスターで盛大に祝ってから、到着するせいでの2日酔い疲れですが、当人はまだ26才と若いため、心配することはないですかね。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ

南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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