シーン別描き文字【自然・天候】
轟く!(とどろく)
自然界には大地のうなりや雷鳴など、さまざまな音があります。地震や火山の噴火、雷鳴の轟き、またこのあとに紹介する炎や風、光などの自然現象は、時にキャラクターが放つ威圧感や感情の表現にも使うことができます。
メインビジュアルは、地響きが鳴っている場面をハイアングルで描きました。地の底から響いてくる重低音には、極太ゴシックのような太くて黒い文字が似合います。また地面の震動はブレの線で表現しました。そのほか、さまざまな大きさの文字を画面上に散らしていますが、小さい文字から大きい文字になるように描くとだんだん音が大きくなってきたことを、大きい文字から小さい文字になるように描くと音が小さくなってきたことを表現できます。
黒文字だと画面が重くなってしまう、または暗い場面のため文字が目立たないといった場合は、「ゴロゴロ ゴロゴ」のように白文字にして文字をゆがませたり、「ズズズ…」のように文字内を模様にしてフチに強弱をつけることで、文字を強調するのも解決策のひとつです。
地震や火山の噴火、雷鳴の轟きなどの自然現象で使う描き文字
︎「ガタガタガタ」、「ゴロゴロゴロゴ」、「ギシッ」
遠雷などの絵に加える描き文字例。
︎「ギギギギギギ」
大きな軋む音の表現例。尖ったものを意識したデザインとなっており、文字内はノイズのトーンを使用している。
︎「ガガガガガ」、「ズズズ…」
大地が動く不気味な音の表現例。はうように動く大きな生物・怪物などにも使用できる。
︎「ドドドドドドドドド」
人や動物の群れの大移動による地響きなどの表現例。
燃える!
炎にはいろいろな表情があります。激しく勢いよく燃える炎、ゆらゆら穏やかに灯る火などなど。そのため、発する音もバリエーション豊か。燃えさかる炎の音をはじめ、火の粉がパチパチと上がる音やライターなどで火をつけたときの音なども含めると、多種多様です。バトル漫画では炎属性のキャラクターが炎を武器に戦う場面が多く見られますが、そういったシーンを描きたいと思っている方も多いのではないでしょうか。
キャンプファイヤーや火事など現実的な状況での火を表現する描き文字は、火が燃えているという説明をする役割なので、文字の大きさも音の大きさに合わせたサイズで、形もシンプルなものになります。ですが激しくうねる炎、心象風景としての炎などを描く場合は、その勢いや強さ、激しさ、恐ろしさを描き文字に込めましょう。
メインビジュアルに描かれているのは、怒りの炎。勢いよく立ちのぼる炎を表現した描き文字「ゴオオオオ」を全面に配置することで、炎の勢いとともに絵の迫力を大いに盛り上げています。
キャンプファイヤーや火事など現実的な状況での火を表現する描き文字
︎「ゴォッ」、「ボオオオオオ」、「メラメラメラ」、「シュボッ」
勢いのある音には、荒々しい線も似合う。
︎「ボォッ…」
暗がりにうっすら浮かぶ灯りの絵に加える描き文字例。
︎「ボッ」
突然の発火といった場面に加える描き文字例。急に立ちのぼる炎のイメージを、勢い線によって表現している。
︎「パチッパチパチ」
木がはじけて火の粉が飛ぶ音の表現例。乾いた音を、白く尖った文字で表している。
吹き荒(すさ)ぶ!
メインビジュアルは、枯れ木とたたずむ女性のシルエット。吹き抜ける風の音の描き文字「ヒュウウウウ」とあいまって、寂しさが漂っています。
先端が尖った描き文字は鋭さ、厳しさ、冷たさを感じさせます。メインビジュアルでは画面右から左へと何本も気流が描かれています。そしてそれに重なる描き文字は内部が透けているため背景が見えており、背景線の流れや風の動きを削がない工夫がなされています。また文字はシルエットの黒いエリアに少しかかっているものの、ベタ部分には置かれていません。これにより描き文字が風の音であることが読者にもわかり、風とともに文字も一緒に流れているイメージを作り出しています。
風の音を口真似すると、「ヒュ」や「ピュ」で始まる高い音で表現することが多いでしょう。そういった高い音、鋭い音、かぼそい音の表現には、尖った細い描き文字がオススメ。また暴風やジェット噴射など大きく荒々しい音、太い音は文字も太らせるとその印象が出ます。そのほか長く続く音を描く場合は、音引き「ー」を使いましょう。
風の音を表現する描き文字
︎「ヒュルルルルル」、「ゴーッ」
風の音の表現例。また大砲から発射された弾が飛んでいく音としても使用できる。
︎「ヒョオオオ」
冷たい風を描く際に加える描き文字例。気温の低さを、刺すような尖った文字デザインで表現している。
︎「ブシャアアー」
水がすごい勢いで吹き出している音の表現例。
︎「ブオオオオオ」
猛吹雪や強風などの表現例。太い文字で荒々しい音を演出している。
︎「ヒュウウウウ」
寒風などの場面で使用。文字を細くすることで、寒々しいイメージを強調している。
波打つ!
静かな海、荒れる海など、海にはさまざまな表情があり、波音の描き文字にもいろいろなバリエーションがあります。メインビジュアルには、静かな砂浜に寄せる波の音の描き文字が描かれています。
日本の漫画は、基本的に右から左へと読んでいきます。描き文字「ザーン」と「ザザーン」を2行とも波側に寄せず右端と左端に描き、あいだに空白と歩く女性の姿を置いていますが、こうすることで読むテンポに間を作っています。また細めの黒文字は、穏やかな波であることを伝えています。なお激しく打ち寄せる波の音を表現したい場合は、「ドッパーン」「ドウッ」のように筆文字で勢いよく描くとよいでしょう。同じ文字でも大きさや形を変えればイメージはがらっと変わります。
海に行けば波の音は聞こえますが、夏の海水浴の場面などではあまり波の音が描かれません。描き文字は臨場感を高めたり主人公の感覚や心境を表したりする演出の一手法なので、必要ないと判断した場合は、描かなくても大丈夫です。
さまざまな表情がある海の波音の描き文字
︎「ザバアッ」、「ゴーッ」
同じ「ザバァッ」でも、左は浴室でお湯をかぶる音や浴槽から上がる音の表現例。右は巨大な怪獣などが海や湖から現れた音の表現例。
︎「ドッパーン」
岸壁に打ちつける波の絵などに加える表現例。筆文字の荒々しいタッチで、荒波や激しい波を表している。
︎「ゴボゴボ」、「ドブン」
水中に潜って沈んでいく絵に加える表現例。
︎「ザザザザザ」、「パシャーン」、「ドゥッ」、「ザーン」
海岸の岩場に打ちつける波の絵などに加える表現例。筆文字の荒々しさ+スパッタリングで、岩に砕ける波を再現している。
雨降る!
雨は画面の上から下へと幾いく筋すじもの線を描いて表現するのが通常です。描き文字も雨に沿わせて上から下へと縦に描くと、全体として動きが感じられる絵になります。また描き文字を横一列に描くと、雨が降りしきっている印象を与えることができます。描き文字全般にいえることですが、こう描くべしという決まりはありません。描き方次第で雰囲気や印象を変えられるので、本書に記載されていること以外にもいろいろ試してみましょう。
メインビジュアルには、中央のキャラクターを囲むように描き文字が描かれており、自然とキャラクターに視線が集まるレイアウトです。傘も差さない少女の前にあるのは誰かの墓。大きな雨音は、少女の受ける衝撃や落胆の心情表現にも一役買っています。
雨や水の音の描き文字には、濁音「゛」や半濁音「゜」、音引き「ー」が入るものが多いので、これらの部分や文字のはね、はらいの描き方に工夫しがいがあります。雨だれや跳ねる水の音の場合、描き文字の先を水滴の形にしてもよいでしょう。
雨や水の音の描き文字
︎「ザーザー」
雨に加える描き文字の場合、降る向きに合わせて文字を描くのがポイント。
︎「ポッポッ」
雨の降り始めの絵に加える描き文字例。
︎「サァァァァァ」
暑い日の恵みの雨といったシチュエーションなどに使用。細い文字は、どこか明るくさわやかな印象を与えることもある。
︎「ピチョン!」
雨だれが落ちる絵などに使用。文字の形をしずくのようなデザインにすることで、雰囲気をより高めることができる。
︎「しとしと」、「シトシト」
細かな雨の場合は、絵と同様、太い文字にしないほうが雰囲気と合う。
輝く!
ここでは光、輝きなどの描き文字を集めました。メインビジュアルは雷が落ちているシーンです。稲妻は自然界の光なので、輝きとしては大きく強烈なものですね。音としても耳をつんざく激しいものなので、描き文字のデザインはギザギザに尖らせ、先を鋭く、引き裂かれた感じで描きました。また稲妻には一瞬光る閃光(せんこう)といったイメージもあるので、それを表現するため白文字となっています。
このような鋭い光を表現したいときは、文字の先を尖らせ、文字全体に大きな動きをつけることが大事。また大きい音、まぶしい光、大きな光、非常に鋭い光などを表現したい場合は、文字も大きく描きます。逆に宝石などまばゆいけれど小さい光の場合は、文字のデザインはそのままに小さく描くことで、鋭いけれど印象的に輝く光の明るさを表現することができます。
輝きを表す描き文字は、明るい表情など前向きな気持ちの感情表現に使うこともできます。感情も笑顔も内から外に広がっていくイメージがあるので、大きく描くとより効果的です。
輝きを表す描き文字
︎「カッ」
激しい光の絵などに加える描き文字例。「カッ」という言葉は文字の形自体に同じ方向の直線が多いので、放射する光を表現しやすいデザインとなっている。
︎「サァァ…」
雨上がりに差す光の絵などに使用。
︎「ピカーッ」、「ピカッ」
細いフチの白文字は、光の擬態語表現に向いている。
︎「キラキラ」、「ピカピカ」
太い線より細い線のほうが、光に加える描き文字に適している。
︎「ジリジリ」
夏の太陽が照りつけている絵などに加える描き文字例。
︎「キラリ」
小さいがはっきりとした光などに使用。このように太いラインと細いラインを組み合わせることによっても、光のイメージを表現できる。
『漫画のプロが全力で教える「描き文字」の基本』はこんな人におすすめ!
・描き文字を上手にかきたい! ・描き文字のレパートリーを増やしたい! ・シチュエーション別のかき分け方法を知りたい
と感じている方には大変おすすめな本です。
文字の大きさや、字体、レイアウトなど作風やシチュエーションに合わせてえがく描き文字は、イラストではなく文字なので単純そうにみえますが、奥が深いため苦手意識を持つ方も多くいます。本書では、基本的な描き文字のかき方が分からない初心者の方、ある程度はかけるけど場面ごとのかき分けが得意ではない方、効果音のレパートリーが少なくて悩んでいる方、文字の配置やレイアウトが苦手な方などに向け、描き文字に対するさまざまなお悩みポイントをおさえた一冊です。
漫画や同人誌をかく上で、必要不可欠なものが「描き文字」
描き文字は、キャラクターの心情や効果音などストーリーをより効果的に演出するために必要ですが、SNSなどでは描くのが難しいと言われています。そんな描き文字を東京デザイン専門学校さん協力のもと、本当に使える描き文字だけをわかりやすく丁寧に解説します!
気になる中身を少しだけご紹介!さまざまなシチュエーションがある食事のシーン!描き文字を組み合わせるだけで伝わり方が大きく変わる!?
擬音語、擬態語の多い食事シーンはひと工夫でよりリアル感を演出
食事についてはさまざまな擬音語、擬態語があります。メインビジュアルは「がつがつ」「パクパク」と、ものすごい勢いで食べている女の子の絵。この絵は一見「がつがつ」だけで成立しそうですが、「パクパク」を入れることにより、ものすごい勢いで口に食べ物を放っていることが伝わる絵になっています。また描き文字が前面に出ており人物の顔周りに置かれていますが、これにより動きの激しさが表現されています。食事はおもに口で行う動作なので、描き文字は息づかい同様、顔や口の周りに描くようにしましょう。
下の図は食べる状況に合わせて黒文字、白文字を描き分けています。「ゴクン」は液体を飲み込む音ですが、食べたい気持ちを表現する際にも使えます。「ゴ」の濁点や「ン」の一部が円形になっており、これにより読者にポジティブな印象を与えています。「チュルルルー」「ズズー」などは麺類を食べている音。「パクパク」のようにただ口に入れるのとは違い、時間的な幅のある動作なので、音引きを長めに伸ばすことでそれを表現しています。
静かなシチュエーションも「描き文字」をプラスしてもっと伝わる表現に!
描き文字をどの部分に描くかで読者が状況を理解できる
静かな状況のとき、実際は音がないわけですが、マンガではそれも描き文字で表現します。無音の状態を表す表現法のなかでも有名なのが、メインビジュアルの「シーン」ではないでしょうか。この「シーン」は静かな状況ですが、かなり大きく描かれています。それはこの絵がギャグシーンであり、そのば全体が静まりかえっていることを明確に示したいから。またこの描き文字を画面上部に描くことで、この教室に教師以外誰もいないことを読者が瞬時に理解できるようになっています。
下の図には、静寂のなかで聞こえる小さな音も掲載。小さな音を文字でも小さく描くことで、その音がわずかに聞こえるくらい静かであることを読者に伝えることができます。時計の音「カチコチカチコチ」、足音「カツーン コツーン」などが代表的な例ですが、ほかにもいろいろあると思います。また緊張して言葉が出ない状態の「カチン コチン」などは、キャラクターの緊張度に合わせた大きさで描くようにしましょう。
★文字だけで印象は操作できる!? ★デジタルツールとアナログ道具で描く描き文字 ★漫画でよく見る「ときめく」の描き文字の種類とは ★音を奏でる時に使う描き文字とは?
などなど気になるタイトルが目白押し!
本書は文字例の多さはもちろんのこと、描き文字を漫画に当て込んだ例も豊富に取り入れて解説しています。実際どのくらい描き文字は漫画の表現力を高めるのか、ストーリーの印象が変化するのかを確認しながら、読者の皆さまが自分の作品にも取り入れていただけると嬉しく思います。
【書誌情報】
『漫画のプロが全力で教える「描き文字」の基本』
著者:東京デザイン専門学校
漫画や同人誌などをかく上で、キャラクターの心情や効果音などストーリーをより効果的に演出するためには、必要不可欠な「描き文字」。文字の大きさ、字体、レイアウトなど作風やシチュエーションに合わせてえがく描き文字は、文字なのでイラストより単純そうにみえて奥が深いゆえ、苦手意識を持つ人もいます。基本的な描き文字のかき方からわからない人、ある程度はかけるけど場面ごとのかき分けが得意ではない人、効果音のレパートリーが少なくて悩んでいる人、文字の配置やレイアウトが苦手な人など、本書はそのような描き文字に対するさまざまなお悩みポイントをおさえた一冊です。