トロバス消滅の危機 立山黒部貫光、EV化方針

電気バスへの切り替えが検討されている立山黒部貫光のトロリーバス=立山黒部アルペンルート・室堂駅

  ●継続へ要望書

 立山黒部アルペンルートを走る国内唯一のトロリーバスが2025年春以降、現在の「バスの形をした鉄道」からEV(電気自動車)バスに切り替わり、姿を消す見通しとなった。老朽化などを理由にEV化の方針を示す立山黒部貫光(富山市)に対し、多くの観光客に愛されてきたトロリーバスの運行維持を要望する動きが公共交通の専門家らから出ているが、継続に向けた道のりは険しくなっている。

 アルペンルートの「立山トンネルトロリーバス」は1996年に導入され、8台が室堂―大観峰間の3.7キロを走る。バスのEV化は、立山黒部貫光の見角要社長が5月の決算会見で明らかにした。会見では老朽化と部品調達が難しいことを理由に挙げ、「EVバスしかない。そう年数をかけずに更新していきたい」と述べた。8台を同時に更新するか、順次入れ替えるかなどを含め検討する。

 標高2450メートルに位置するトロリーバス乗降場の室堂駅は、日本一高い場所にある鉄道駅として知られるが、車体がEV化すると鉄道でなくなるため、鉄道駅として扱われなくなる。

 車体を製造した大阪車輌工業(大阪市)によると、主に電気系統の部品が調達できず、現行の車両の維持は困難とする。新車の製造は可能ながら、運行には法律の壁が立ちはだかる。

  ●運行に法の壁

 北陸信越運輸局によると、2006年改正の「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」で、運転士の異常時に自動的に列車を停止させる装置の設置が義務付けられた。「デッドマン装置」と呼ばれる装置にはトロリーバスに対応した機器が存在せず、車両を更新した場合、設置義務が適用されるため、「現行法では走る許可が下りない」(担当者)という。

 アルペンルートでは、関西電力が黒部ダム―扇沢間で運行していた「関電トンネルトロリーバス」を2019年に電気バスへ切り替えた。トロリーバス15台は順次解体されたが、愛好者の働き掛けで1台だけ残され、現在はトロバス記念館(長野県大町市)で保存、展示されている。

 保存活動に尽力した都市交通政策技術者(公共交通再生アドバイザー)の善光孝さん(60)=高岡市=はトロリーバスについて「バスによる大気汚染を防ぐため開発され、日本の高度経済成長を支えた。産業遺産、近代化遺産と言える」と立山トンネルトロリーバスの維持を訴える。

 善光さんは富山県や事業者に対して運行継続を求める要望書を提出するため、賛同者を募っており、「富山を代表する観光資源を後世に残したい」と話した。

 ★トロリーバス 架線から電力を得て、モーターで走る車両。法律上は鉄道の一種「無軌条電車」に分類される。立山黒部貫光ではアルペンルートの立山トンネル内で運行している。8台を所有し、1台当たり73人乗り。

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