茨城・取手の双葉地区 90歳の五十嵐さん 「会ってお礼を」 救助の恩、感謝の手紙

浸水した住宅から救助された当時を振り返る五十嵐カツ子さん=取手市双葉

台風2号や梅雨前線の影響による大雨で約600棟が浸水した茨城県取手市双葉地区で、救助された五十嵐カツ子さん(90)が、自身を助け出してくれた消防関係者を探している。五十嵐さん宅近くは、成人男性の腰の高さまで浸水したエリア。救助時の感謝の思いを伝えようと再会を願う手紙をしたため、消防団も出入りする双葉自治会に託した。

「先日は大水の中、私を背にして隣まで連れていってくださいました」「消防団の方でしょうか。連絡をお願いします」

自治会の掲示板に、そんな感謝の手紙が張られている。五十嵐さんは足腰が弱っていることもあり逃げられずにいた3日夕、玄関まで浸水した自宅窓から消防隊員に背負われ、近くに住む長男宅まで避難した。

五十嵐さんは福島県出身。団地が造成される前の1950年代、夫や子どもと双葉地区に移り住んだ。「当時は野原に家が数軒、ぽつんと建っているだけ。土地も安く、大好きな花を育てられる庭もあったのでここに決めた」と振り返る。10年近く前に夫を亡くしてからは1人で思い出の家に住む。

3日朝起きると、道路は冠水していたが、雨が間もなくやんだこともあり、家で水が引くのを待っていた。ただ、午後になっても一向に水位は下がらず、水も次第に自宅庭へ。大好きな花や外に置いた荷物は次々と水に沈み、「あっという間に水があふれた。1人で夜を明かすのかと不安だった」と振り返る。

水位が床上へ迫りそうな時、消防服を着た2人組の男性がボートを引っ張ってやってきた。長男や孫の家まで避難でき、「助かった」と胸をなで下ろした。

五十嵐さんは救出から数日後に自宅へ戻ると、すぐに愛用のボールペンを手に取った。救助直後は、去っていく2人に「ありがとう」と叫ぶのが精いっぱい。「名前も聞けなかった。会って一言、お礼を伝えたい」。五十嵐さんは恩人との再会を待ち望んでいる。

市消防本部によると、今回の大雨で、取手市内では双葉地区を中心に56世帯88人が救助された。同本部職員と地元の消防団員延べ計142人が、3日間にわたって早朝から深夜まで救助や交通誘導に当たった。

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