トヨタ、クルマの未来を変える新技術を公開。バッテリーEVの革新技術、水素事業の確立へ

これまでに発信してきたビジョンや方針の具現化に向け、開発中のコンセプトも含めた具体的かつ多様な技術を公開するとともに、副社長・Chief Technology Officerの中嶋裕樹氏が、トヨタの技術戦略と今後のクルマづくりの方向性について説明した。さらにBEVファクトリーのプレジデントに就任した加藤武郎氏、7月より立ち上がる水素ファクトリーのプレジデントに就任予定の山形光正氏が、それぞれの目指すバッテリーEVおよび水素事業の戦略を話した。

トヨタの技術戦略とクルマづくりの方向性

副社長・Chief Technology Officer:中嶋裕樹氏

中嶋氏は、4月の新体制方針説明で説明をしたというトヨタモビリティコンセプトの実現のカギを握る、3つのアプローチとして電動化、知能化、多様化を挙げた。

電動化では、各地域の事情に応じた最適なパワートレーンの導入など、「マルチパスウェイ」を軸に進めるとした。知能化は、クルマやサービスに加え、Woven Cityなど、社会とのつながりを広げる取り組みも進めていくという。。多様化は、すべての人に提供する移動の自由や多様なエネルギーの選択肢まで、「クルマ」から「社会」へと領域を広げる。

マルチウェイパスプラットフォーム

この3テーマを推進すべく、技術の領域でも、カンパニー制発足当時の2016年以降、先行分野へのリソーセスシフトと未来志向での積極投資を進めきた。2023年3月時点、開発人員は半分以上をシフト、研究開発費は総額を増やしながら約半分を先行にシフトしてきた。今後さらに加速させていくという。

中嶋氏は、今後以下の3つの軸でクルマづくりを進める考えを示した。

  • 妥協無く安全・安心を追求
  • 未来はみんなでつくるもの
  • 地域化の加速

安全・安心の技術を届けるためトヨタセーフティセンスをさらに磨く。また、CJPTでの商用分野での脱炭素への取り組みや、タイCPグループとの提携、またモータースポーツでの連携など世界中の仲間とつながり、未来をつくっていくとした。地域化の加速については、今後は地域ごとに顧客ニーズが一層異なってくるため世界中にある研究・開発拠点において、「お客様のもとでの開発」を加速していく方針だ。

トヨタはこれまでハイブリッドの代名詞となったプリウスや燃料電池車のMIRAIなど難しいと思われたことを技術力で乗り越え、時代の先駆けとなる車をこれまで数々開発し、未来を切り拓いてきたと語り、「クルマの未来を変えていこう!」をスローガンに、今後も技術の力で、お客様を未来へいざない、クルマを社会とつなげることで、社会の未来作りもリードしていくとした。

次世代バッテリーEV戦略

BEVファクトリープレジデント:加藤武郎氏

加藤氏が、5月に発足したバッテリーEV専任組織であるBEVファクトリーで実現したいことは、クルマ・モノづくり・仕事の変革を通じ「BEV」で未来を変えることだという。

クルマ軸では、次世代電池の採用と音速技術の融合などで、「航続距離1,000km」を実現するとした。かっこいいデザインの実現のため空力性能はAIがサポートし、デザイナーは感性の作り込みに専念でき、Arene OS、フルOTAで操る楽しさを無限に広げる。「マニュアルEV」のように、「クルマ屋だからこそ出来る技術」で顧客にワクワクする驚きと楽しさを届けると話した。

モノづくりの軸では、車体を3分割の新モジュール構造とし、ギガキャストの採用で、大幅な部品統合を実現することで、車両開発費、そして、工場投資の削減を目指す。さらに自走生産の技術で、工程と工場投資を半減するとした。

ギガキャスト

BEVファクトリーは、ワンリーダーの元、ウーブン・バイ・トヨタや外部パートナーなどクルマ屋の枠組みを超えた、全ての機能と地域が集まる「ALL in ONE TEAM」だと紹介。このONE TEAMで仕事のやり方を変革し、皆が同じ現場で、同じ問題意識を持ち、素早い意思決定と初動を実現する。

これらの変革を通じ、グローバルかつフルラインナップの一括企画を進め、次世代BEVは26年から市場に投入。30年には350万台のうち、170万台をBEVファクトリーから提供するという。次世代電池を採用し、電費は世界Topに拘り、稼いだ原資で、顧客の期待を超える商品力向上を図り、収益を確保したい考えだ。

マニュアルBEV

水素事業戦略

水素ファクトリープレジデント(7月1日付就任予定)山形光正氏

山形氏によると、2030年の水素市場は、欧州、中国、北米の規模が圧倒的に大きく、燃料電池市場は2030年に向けて急速に市場が広がり、年間で5兆円規模になると予測されている。同社のMIRAIの水素ユニットを使って燃料電池の外販を進めており、2030年に10万台の外販オファーがあり、その大半は、商用車だという。

急激なマーケットの変化に対応するために、7月から新たに、水素ファクトリーという組織を設置し、営業、開発、生産まで、ワンリーダーの下で、一気通貫で即断即決できる体制にする。この水素ファクトリーは、以下の3つの軸で事業を推進していくという。

  • マーケットのある国で開発・生産
  • 有力パートナーとの連携強化
  • 競争力と技術

欧州・中国を中心に、現地に拠点を設け、取り組みを加速させる。有力パートナーと連携を通じて数をまとめることで、アフォーダブルな価格の燃料電池を顧客に届けることを目指す。そして、次世代セル技術やFCシステムといった「競争力のある次世代FC技術の革新的進化」に取り組んでいくとした。

これらの取り組みを進めながら、本格的な事業化に取り組む方針だ。次世代のシステムでは、技術進化、量産効果、現地化により、37%の原価低減を実現。更に、パートナーとの連携により、仮に2030年に20万台のオファーがあった場合、50%まで原価低減が可能になるという。多くの顧客や各国政府の期待に応えながら、しっかりと利益を出せるようになると見込む。

水電解装置

また、水素の価格についてはまだまだ高額だとして、普及していくためにトヨタは、「つくる」「はこぶ」「つかう」の「つくる」ということにもパートナーと共に取り組み、引き続き貢献していくとした。

今回の強力なパートナーとの関係を機会と捉え、マーケットがある国で、顧客に密着した拠点を構え、しっかりと数をまとめてアフォーダブルな商品を提供し、水素の事業化に向けた取り組みを加速させていくという。

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