監督交代の決断の難しさ/六川亨の日本サッカーの歩み

[写真:©︎J.LEAGUE]

洋の東西を問わず、チームの成績が低迷すれば責任を問われるのは監督だ。大ナタを振るったフロントは、戦術や選手起用の変化に期待したり、いわゆる“ショック療法”として選手のメンタル面での変化、危機感やモチベーションのアップなどを期待したりする。

今シーズンのJ1リーグなら、第13節終了後の5月17日に柏はネルシーニョ監督の退任と、井原正巳ヘッドコーチの監督就任を発表した。2勝5分け6敗の16位では、フロントとしてもやむを得ない決断だっただろう。この柏に限らず下位に低迷していた横浜FCやG大阪は、例年ならもっと早くに監督交代の決断を下していたかもしれない。にもかかわらずそれをしなかったのは、今シーズンはJ2降格が1チームしかないからだろう。降格の可能性が3チームから1チームに減ったメリットとも言える。

残念ながら井原新監督は、初陣こそ神戸に1-1で引分けたものの、その後は川崎Fに0-2、札幌とは4-5、横浜FMとは3-4と、特に直近2試合は大量点を奪いながら後半アディショナルタイムの失点で悔しい敗戦を喫している。とはいえ今シーズンのネルシーニョ前監督は最多得点が2点で、複数得点も2回しかない(逆に無得点ゲームは7試合)。それが低迷の原因ともなっただけに、井原監督に代わった効果は出ていると見ていい。横浜FM戦では193センチの新加入FWフロートがヘッドで来日初ゴールを決めるなど、攻撃陣は復調傾向にあるだけに、代表ウィークによるリーグ中断期間中にどれだけ守備を立て直せるか。体力面や集中力のベースアップにも期待したい。

逆に、いつ解任されてもおかしくないと思っていたのがG大阪のダニエル・ポヤトス監督だ。今シーズンG大阪の監督に就任したばかりで、さらに日本での監督経験は徳島での2シーズン(J1とJ2)しかない。成績が低迷したからといって、すぐに解任することはないとは思っていたが、さすがに5月に入ってからはダービーで負けるとその後も名古屋、浦和、横浜FMに4連敗。相手が格上だったとはいえ、第14節終了時点で2勝4分け9敗の最下位ではいつ解任されてもやむを得ないと思った。

しかしG大阪のフロントは諦めなかった。新潟にアウェーで3-1と快勝して2勝目をあげると、福岡には2-1の逆転勝利を収め、FC東京にも相手のミスを突いて3連続ゴールで完勝した(3-1)。FC東京戦は、天皇杯2回戦(6月7日)で高知ユナイテッドに苦杯をなめた影響を微塵も感じさせなかった。

G大阪と柏では、監督の置かれている状況はまったく異なるため同列に語ることはできない。しかし降格の危機にあったことでフロントは決断した。「継続」か「変化」か――とても難しい舵取りであり、“保証”のないギャンブルである。そして「継続」を選択したG大阪は最下位を脱出して京都と同勝点の15位に浮上した。まだまだ安心できる順位でないものの、フロントの判断は「吉」と出た。神戸と横浜FMを中心とした優勝争いは、名古屋や浦和、C大阪の粘りもあり混沌としている。そして同様に、残留争いも最終盤までもつれるのではないだろうか。

新潟は一時の勢いが止まり(13位)、中心選手のMF伊藤涼太郎がシント=トロイデンへと移籍した。FC東京は中村帆高の負傷離脱に始まり、G大阪戦ではMF青木拓矢とFWアダイウトンが膝の負傷で交代を強いられた。順位こそ12位だが折り返しの第17節終了時点で勝点19は、J2に降格した10年に並ぶワースト記録だけに、アルベル監督の去就問題に発展する可能性もあるかもしれない(※編集部注:14日に退任が正式発表)。この2チームに加え、6試合勝利のない福岡(勝点20の11位)まで降格の可能性がある混迷のJ1リーグと言えるのではないだろうか。


【文・六川亨】

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