旧バス車庫に清流で育つアマゴやニジマス?? 79歳男性、地下水利用して養殖「最後のチャレンジ」 兵庫・丹波

冷たい地下水でアマゴなどを養殖する池上淳さん=丹波市氷上町成松

 ポンプで送られた空気がぶくぶくと水槽の水を踊らせ、アマゴやニジマスたちが体をきらめかせ泳ぐ。兵庫県丹波市氷上町成松の街角に立つ旧バス車庫で、清流で育つ川魚の養殖が行われている。同町の池上淳さん(79)が「最後のチャレンジ」と掲げて起業。山あいで流水を用いる一般的な方法ではなく、地下水を使った珍しい養殖で、「新鮮でおいしい川魚を手軽に味わえるようにしたい」と意気込む。(秋山亮太)

■アマゴ稚魚500匹と成魚200匹、ニジマス成魚500匹

 所有する旧バス車庫を改装した「八千代養魚センター」。2階あるうちの1階部分が養殖場で、水槽やポンプが並ぶ。現在はアマゴの稚魚500匹と成魚200匹、ニジマスの成魚500匹を育てている。

 約8メートルの深さからくみ上げる地下水は水温14度ほどと冷たく、池上さんは「気候変動や水量減などで温度が上がる川と比べて安定しており、アマゴなどを育てるのに適している」と説明する。

■経営者として一線退く

 池上さんはこれまでに、介護用品の販売会社などを手がけてきた。経営者として一線を退いた後も、工場の流れ作業や石材会社のセールスなどに挑戦。70歳を過ぎた頃に腎臓を患い、人工透析が必要となった。

 「人生の最後を飾るチャレンジを」と考えた池上さん。ふと、子どもの頃、父と地元の川で魚取りを楽しみ、味わった記憶がよみがえった。アマゴやニジマス、アユなどを見る機会が減っているとも感じ、「渓流のおいしい魚をもっと身近にしたい」と養殖業のアイデアにたどりついた。

■主治医に背中押され

 週3回の透析もあるが、主治医から「気持ちに張り合いができていい」と背中を押され、実現した。

 地下水で水温が冷たく保たれているのに加え、建物内にあるため、池上さんは「夏の日射による水温上昇も避けられそうだ」と話す。カワウなどに魚が食べられてしまう心配も少ない。だが、環境上のメリット以上に「長女や2人の孫が水槽の掃除や餌やりを手伝ってくれることが、魚の成長を一番支えてくれている」と感謝する。

■配達や飲食店への提供も検討

 水槽からすぐに提供できる利点も生かし、「夕ご飯用に1匹ちょうだい」「キャンプで食べる分がほしい」といった要望にも応えられる。今はセンターでの直売のみだが、生産を安定させ、人材をそろえて配達や飲食店への提供なども検討。「開拓したいことがたくさん。希望が待っています」と池上さんは爽やかに笑う。

 アマゴ1匹660円、ニジマス1匹770円(いずれも税込み)。事前の連絡が望ましい。八千代養魚センターTEL090.3495.3365

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