4Kレストアとディレクターズカットで本来の姿を取り戻した『ビデオドローム』

©1982 Guradian Trust Company.All Rights Reserved.

飯塚克味のホラー道 第47回 『ビデオドローム』

80年代、ビデオデッキが普及し出した頃、同時に海賊ビデオというものもまた広がっていった。ソフトメーカー自体、まだ黎明期にあったし、著作権に関しても、かなり甘く受け止められていた。ソフト化されていない映画も多く、海外で出たビデオなどを素材にして、勝手に字幕を付け、街のレンタルビデオ店のお得意さま向けにひっそり提供されていたのだ。そんな中で、当時、圧倒的な人気を誇っていたのがジョージ・A・ロメロ監督の『クリープショー』(1982)と、今回、紹介するデヴィッド・クローネンバーグ監督の『ビデオドローム』(1982)だった。

実は自分が初めて本作に触れたのは、友人宅で鑑賞した海賊版のビデオだった。完全に違法行為だが、困ったことにこの作品、そうした形で観るのにピッタリの内容なのだ。主人公は小さなケーブルテレビ局を経営するマックス。刺激的で、他局が放送しないような衝撃的なコンテンツを探している彼は、知り合いの技術者から、ビデオドロームという危ない映像が電波で流されていることを知らされる。人を拷問するだけで、筋のない映像。違法受信で録画したビデオドロームを繰り返し観ていくうちに、マックスは内面だけでなく、肉体的にも変化が生まれていく。ビデドロームとは何なのか?そしてマックスはどうなってしまうのか?

それまで『シーバース/人喰い生物の島』(1975)や『ラビッド』(1977)、『ザ・ブルード/怒りのメタファー』(1979)で、感情や科学が人体に思わぬ影響を及ぼし、変貌していく様を描いていて来たクローネンバーグ監督。1981年の『スキャナーズ』が全米で1位を獲得したことで一躍、大勢の知る存在へとなっていった。翌年、1982年に作られた『ビデオドローム』は、リック・ベイカーによる特殊メイクの出来も素晴らしく、カルト化していく。

恐らく、リック・ベイカーの仕事なしに、本作のカルト化はあり得なかったのではないかと思わせるほど、この特殊メイクは素晴らしい。手に取ったビデオテープ(ベータなのも懐かしい)が生き物のようにうねるシーン、テレビ自体が悶え始め、主人公がブラウン管に頭を突っ込んでいく幻想的な場面、腹が割れて、そこにビデオを突っ込むショックシーン、クライマックスでは撃たれた人間がなぜか苦しみながら、身体を分裂させていく。これらの衝撃映像なくして、『ビデオドローム』は語れない。

話は進むにつれて説明不可能になっていくが、クローネンバーグならではの、独特のムード作り、後に『ロード・オブ・ザ・リング』も手掛けたハワード・ショアの不気味なスコア、この頃のクローネンバーグ監督を支えたマーク・アーウィンのカナダの空気感を捉えた撮影、そして当時、非常に勢いがあったジェームズ・ウッズの熱演など、全てがプラス方向に作用したと言えるだろう。

この夏にはデヴィッド・クローネンバーグ監督、久々の新作となる『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』(2022)の公開も控えている。息子であるブランドン・クローネンバーグ監督が、父親に負けない不気味な作品を生み出しているが、それに触発されたのか、昔の感覚を取り戻したかのような変態的な作品に仕上がっているので、その予習としても『ビデオドローム』は観ておくべきだ。

日本での初公開は、東京国際ファンタスティック映画祭が開催され、ホラー映画が大ブームを巻き起こした1985年。当時のタイトルは『ヴィデオドローム』だった。あれから約40年、ついに本作が4K化。編集もこれまで国内で出ていたソフトはR指定のやや控えめなものだったが、今回はディレクターズカットになり、劇中のビデオドロームの映像や、特殊効果など様々な場面が本来の姿を取り戻している。画質に関してはイギリスで出た4K UHDでもチェックしたが、色が濃厚になり、細部が鮮明。フィルムならではのポテンシャルを存分に味わえる質の高さが実感できるはず。是非、映画館の大スクリーンで、その世界感に浸ってもらいたい。

※『テアトルクラシックスACT.3 ビデオドローム 4K ディレクターズカット版』は、6月16日(金)よりロードショー

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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
テアトルクラシックスACT.3 ビデオドローム 4K ディレクターズカット版
2023年6月16日(金)ロードショー
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