ナポリの名物スイーツが人気に火をつけた 忠臣蔵のまちに新風、「映えスポット」続々 赤穂・坂越

2015年に開店したスイーツ店「坂利太」。若者を中心に注目を集める=赤穂市坂越

 歴史的な町並みが今も残る兵庫県赤穂市坂越(さこし)地区。近年、古民家を改装したスイーツ店やカフェ、雑貨店が続々と誕生し、「映えスポット」として若者らの注目を集めている。今年3月には空き家の流通を活発化させ、移住・定住を促す「空家(あきや)活用特区」にも兵庫県内で初めて指定された。かつての風情を保ちつつ、新風が吹き込むまちの様子をリポートする。(小谷千穂)

 6月中旬の休日。坂越地区のメインストリート「坂越大道(だいどう)」は、10~20代の女性や家族連れ、年配の夫婦ら幅広い世代の観光客でにぎわっていた。古民家を背景に、手にはソフトクリームを持ち、カメラに納まる姿があちこちで見られた。

 「ここ10年でまちの雰囲気はがらっと変わった」。人通りがまばらだった頃を知る地元住民の女性は、感慨深そうに話した。

 赤穂市東部に位置する坂越地区は、江戸から明治期まで塩を運ぶ廻(かい)船業によって栄えた港町だった。半世紀前までは大道を中心に、八百屋や薬局、駄菓子店などが軒を連ね、銀行の支店や旅館もあったという。

 しかし、廻船業の衰退に伴い、人口は減少。地区外に大型スーパーができ、車が普及する中、奥藤酒造など一部の店舗を除いて閉店が相次ぎ、「閑静な住宅街になっていた」(地元住民の女性)という。

 坂越地区が注目されるきっかけとなったのが、スイーツ店「坂利太(サリータ)」の開業だった。同市御崎地区で人気のイタリア・ナポリ料理店「さくらぐみ」のオーナー、西川明男さん(62)が、岡山県倉敷市の美観地区を参考に、2015年7月に古民家を改装して始めた。

 ナポリの伝統的なパイ菓子が看板商品で、日本の古い建物とのギャップも受け、たちまち交流サイト(SNS)上で話題に。コーンの代わりにパイ生地を使ったソフトクリームは、1日500個売れることもあるという。

 姫路市内で古道具店を経営していた橋本愛(めぐみ)さん(47)と夫の正人さん(63)も、11年12月に坂越地区の古民家を再利用した店舗に移転した。地元の要望もあり、その後、カフェに転向。雑貨店や古道具店などもオープンさせた。

 海外の家具を使いつつ、各店舗の内外装は古い建物の雰囲気を残しているといい、赤穂市出身の愛さんは「地元の人たちにも受け入れられる店でありたい」と笑顔を見せた。

 坂越地区は市街化調整区域にあり、住宅の建て替えなどが難しかったが、「空家活用特区」に指定されたことでさらなる空き家の活用が期待される。

 建物の管理状態が良い75戸が対象となっており、旅館や物販店、コワーキングスペースなどへの用途変更が想定されている。

 特区を申請した赤穂市都市計画課の渋江慎治課長は「これまでは『忠臣蔵』の認知度に頼ってきた面があるが、今や坂越や御崎地区が観光をけん引している。空き家をさらに活用し、集客力を高めたい」とする。

 西川さんは「今後は夕食を楽しめる飲食店などが増え、訪れた観光客が半日以上過ごせる地区になれば」と期待していた。

相続、耐震診断…空き家再生に高いハードル 県内初の活用特区 

 まちのにぎわい再生の起爆剤として期待される空き家活用だが、課題もある。「空家活用特区」に指定された赤穂・坂越地区では75戸が対象となったが、所有者から空き家情報の届け出があったのは約20戸(6月14日時点)にとどまる。

 届け出が増えない背景には、相続など手続きの煩雑さがあるとみられる。

 赤穂市都市計画課の渋江慎治課長は「市として制度の説明はするが、手続き自体は所有者に委ねるしかないのが現状だ」と話す。

 活用する側も簡単ではない。昨年6月に築約140年の木造2階建て住宅を改装し、古民家カフェ「くつろぎの縁側 優・優」を開業した、坂越のまち並みを創る会の前会長、門田(もんだ)守弘さん(71)も「思ったより大変だった」と振り返る。

 門田さんが古民家を借り始めたのは5年前。ただ耐震診断や建物の改修、各種手続きを含めて準備に4年もかかった。費用も当初の想定を超えたという。

 観光地としてのにぎわいの創出と同時に、地元住民の理解を得ることも重要だ。行列や通行人の増加を問題視する声もあるためだ。

 門田さんは「店側と住民との間をつなぐ役割を担う存在が必要だ」と指摘。また届け出を増やすために「行政が具体的な空き家の活用方法を示すなど、丁寧なサポートが欠かせない」とした。

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