<社説>少子化対策決定 疑問と不安ぬぐえない

 メニューはそろった。財源は大丈夫か。新たな負担を強いられることにならないか。国民は疑問と不安をぬぐうことができない。政府は丁寧に説明を尽くす必要がある。 政府は「次元の異なる少子化対策」の内容を盛り込んだ「こども未来戦略方針」をまとめた。2024年度~26年度の3年を「集中対策期間」と位置付け、年3兆円台半ばを投入する。児童手当を拡充し、所得制限を撤廃。育児休業給付を、25年度から休業前手取りの実質10割に上げる。

 方針について岸田文雄首相は自ら説明し、「若年人口が急減する2030年代に入るまでが、少子化傾向を反転できるラストチャンス」と幾度も語った。「異次元の少子化対策」を掲げる岸田首相の肝いりの施策は国民の目には魅力的に映ろう。

 しかし、財源確保策の詳細は年末に結論が先送りされた。これでは「国民に実質的な追加負担を求めない」という首相の言葉を素直に受け止めることはできない。施策の実行力に疑問符が付くのだ。今国会で肝心な議論を避けてきたのではないか。

 岸田首相は「経済成長と少子化対策を車の両輪とした大きなパッケージを示し、実行する」と述べた。財源に関しては歳出改革によって財源を確保するとした上で、「歳出改革の内容は毎年の予算編成を通じ、具体化していく」と説明している。

 国民は首相のこれらの言葉に確証を持てないでいる。きちんと説明していないからだ。衆院の解散総選挙が取り沙汰される中、岸田政権は国民への負担増などネガティブな印象の払拭に躍起になっているようにも見える。

 仮に解散総選挙に踏み出すならば、国民への追加負担の可能性を含め、少子化対策の全体像を示し、国民の信を問うべきである。野党とも論戦を交わすべきだ。

 財源問題と合わせて政府がまとめた少子化対策の効果も問われよう。

 1989年の合計特殊出生率が戦後最低となった「1.57ショック」を受け、政府は94年、エンゼルプランなど施策を始めた。2019年に安倍内閣が幼児教育・保育の無償化、続く菅内閣が不妊治療への保険適用などに取り組んだ。しかし、少子化は止まらず、22年には想定より11年も早く出生数が80万人を割った。

 これまでの施策で少子化に歯止めをかけることができなかったのはなぜか。細かい検証がなされなければ今回の「異次元の少子化対策」も同じ道をたどりかねない。それなのに新たな負担が生じるのならば国民は納得しない。

 少子化対策は働き方改革や子育て支援、子ども医療の充実など複合的な施策展開が求められる。社会構造そのものの変革が必要だ。政府が現段階の対策にとどまらず、不断の検証を重ねながら子育て世代のニーズに応えた新機軸を打ち出さなければならない。

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