解散権の所在

 「いろんな動きが見込まれる。情勢をよく見極めたい」-。本当に見極めたかったのは、自身の発言の影響力や周囲の慌てる様子だったのではないか、と余計な想像をしている▲その見極めが無事に終わったのか、岸田文雄首相は15日夕の時点で、衆院解散の見送りを早々と表明、16日の国会では立憲民主党が提出した内閣不信任決議案が“粛々と”否決された▲「速やかに退陣すべきだ」-口調の厳しさの割に野党党首の演説は迫力に欠けていた。解散の呼び水になったり、解散の口実にされたりする懸念がなくなって、緊張感を失っていたのかもしれない▲ところで、首相の解散権が無限定に認められるかどうか-については、学説上の争いが続いている。おおまかに要約すると、内閣不信任決議が可決された際の対応を定める憲法69条の場合にだけ認められる-という説と、天皇の国事行為に対する内閣の「助言と承認」を根拠に幅広く認める説▲現在の実務は後者の説に拠(よ)っている。基本にあるのは〈選挙で国民の声を聞くのは悪いことではない〉という考え方だ。ただし、解散のタイミングを好きに選べるかどうか-は、さらに学説が枝分かれしている▲影響力の大きさを実感しながら首相がフフフと静かに笑う光景にも、議論の余地がないわけではない。(智)

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