孤独な高齢者を苦しめるニセ電話詐欺 70代の被害男性「妻がいてくれれば…」

だまし取られた6万円分の電子マネーカードを見つめる松川さん(仮名)=長崎市内

 「妻が隣にいたら『電話切らんね』と言ってくれたのかな」。今春、「サポート詐欺」の被害に遭った長崎市の無職、松川啓三さん(76)=仮名=はそう言って、自宅の壁にかけられた妻の遺影を見つめた。ニセ電話詐欺は、孤独な高齢者の心を苦しめている。
 63歳でリタイアした後、年金と貯金で暮らす松川さん。3年前に病気で妻を亡くして以来、一人の生活が続く。今年3月23日午前、自宅のパソコンでニュース配信サイトを見ていた時、画面の下の方に「次に進め」と広告が現れ、何げなくクリックした。
 「トロイの木馬スパイウエアが検出された」と警告する画面が出て、「そのままだとパソコンが壊れてしまうから連絡してください」と片言の日本語で女性の音声が流れた。松川さんはパニックになり、記載されていた番号に電話した。
 電話に出たのは「マイクロソフト社のリー」を名乗る女。たどたどしい日本語で「ウイルスを解除する費用は4万円」「3年間の補償費用は2万円」と要求してきた。「6万円ならパソコンを買い替えるよりは安く済む」。女に指示され、松川さんは通話状態のまま車で郵便局に行って現金を引き出し、指定された最寄りのコンビニへ向かった。
 女に言われるがまま、初めて電子マネーカードを購入。レジで店長に「何に使いますか」と聞かれたが、指示通り「ゲームの使用料に使う」と答えると、店長は渋々精算をした。帰宅してすぐにカードの番号を入力。すると今度は違う男が電話に出て、こちらも片言の日本語で「入力間違いがある。解消するにはさらに6万円必要」と言った。
 松川さんが再びコンビニへ行くと、さきほどの店長に「それは間違いなく詐欺」と指摘され110番。それ以降、犯行グループと連絡は取れなくなった。
 パソコンなどに警告を表示して不安をあおり、偽のサポート窓口に電話をさせるなどして金銭を要求する「サポート詐欺」。県内では今年5月末までに26件(前年同期比15件増)発生しニセ電話詐欺全体の約半数を占める。被害者の4分の3以上は65歳以上の高齢者だ。
 「6万円と言えど自分には大金。しばらくは悔しくて仕方なかった」。松川さんはこう振り返る。しっかり者で家計を管理していた妻がいたら、被害に遭うことはなかったかもしれない。そう考えると、妻への申し訳なさが募る。「妻が生きていたら怒られてしまうな」と寂しそうに言った。


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