資金需給にギャップがある企業への支援~ 動産評価・換価のゴードン・ブラザーズ 経営幹部インタビュー ~

動産の評価や換価などを手がける(株)ゴードン・ブラザーズ・ジャパン(TSR企業コード:296732150、千代田区、以下GBJ)。5月16日に破産申請した雑貨販売「AWESOME STORE」を展開するオーサム(株)(TSR企業コード:293540152、渋谷区)の 店舗の大半を引き継ぐスポンサーに名乗り出て業界を驚かせた。
変化する日本市場で着実に実績を積み重ねるGBJの堀内秀晃・代表取締役社長、藤川快之・ファイナンス&インベストメント部執行役員、田尾逸人・アセットソリューション部ディレクターに、東京商工リサーチ(TSR)が単独インタビューした。


―GBJ設立の経緯は

(堀内)2005年10月の「動産譲渡登記制度(※1)」運用開始を前に、動産評価を手がけるGordon Brothers Group,LLC(米国・ボストン、以下GBG)が日本進出を検討していた。日本では国や金融機関などが不動産や経営者保証に頼らない融資を試行錯誤していた時期だった。そこでGBGと日本政策投資銀行の合弁(※2)で2006年6月にGBJが誕生した。
(藤川)日本の政策的な側面もあり、半官半民の形でスタートした。
(堀内)GBGは1903年設立で、北米を中心に欧州、アジアなど世界中に拠点を持つ。GBJの設立当時、日本では動産評価や換価のスキームは発達していなかった。我々は一貫して、在庫評価(バリュエーション)、余剰在庫などの換価(ディスポジション)、融資・出資(ファイナンス・インベストメント)を手がけ、時間とともにこれらが浸透し、2022年12月にGBJはGBGの100%出資会社へ移行した。

※1 2004年11月に「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、2005年10月に運用が始まった
※2 設立当初は日本政策投資銀行が出資する「あすかDBJ投資事業有限責任組合」との共同出資だったが、2014年12月に当該持分が日本政策投資銀行の直接出資へ移行

堀内秀晃・代表取締役社長

―2013年2月に、金融庁はABL(動産・売掛金担保融資)の積極活用を打ち出し、金融検査マニュアルの運用も明確化(※3)された

(堀内)確かにABLやLBO(借入金による企業買収)などが使われるようになった。米国では事業再生ファイナンスとしてABLは広く使われるが、日本では「信用性の低下」など、ネガティブなイメージがなかなか消えない。(在庫など動産の)評価会社の数が限られていたことも問題だ。
GBJは、実効性のある担保価値の算出を得意としており、我々が評価して、その担保価値内で金融機関が融資するスキームが定着してきた。再生局面の企業には、担保の不動産価値より借入残が多いオーバーローンになっていることがある。ただ、動産担保は入っていないケースが大半で、きちんと動産を評価してその範囲内で融資すると債務者が行き詰まっても理論上は毀損しない。これらを背景に金融機関もGBJに注目するようになった。

※3 2013年2月5日、金融庁は「ABLの積極的活用について」を公表。金融検査マニュアルのFAQを改定した

―動産の評価と換価は難しい

(堀内)金融機関の多くは、売掛債権の価値は理解しているが、在庫などその他の動産の価値評価のノウハウは乏しい。GBJは、動産評価のノウハウだけでなく、在庫の売買も自ら手掛ける。例えば、販売実績のデータがあれば、この在庫はこういう売り方をすれば、だいたいこの金額となるという分析ができる。これまでは、買取業者に二束三文で処分していた在庫が、ECや閉店セールなど適切な販売手法を組み合わせて最適化すれば価値を最大化させ、担保評価を高めて融資が可能となる。

―コロナ禍など商流が大きく変わる場面で過去のノウハウは通用するのか

(堀内)確かに在庫評価は難しくなった。同じ商品でも売れない時期が長びくと、より深い割引が必要となる。また、コロナ禍前と同じ割引率では換価まで時間がかかり、維持費や倉庫代など経費が増える。
(田尾)GBJでは、在庫換価を常日頃している。今のタイミングだと売れやすいなど過去のデータを持っており、在庫評価は定量的な分析と市場環境や季節、商品サイズなど定性面も組み合わせて評価できるのが我々の強みだ。コロナ禍前だが、2019年にアパレル大手(株)ワールド(TSR企業コード:662058453、神戸市中央区)と合弁で新会社を設立した。余剰在庫を再循環できる店舗(&Bridge)を開設した。また、2020年9月には(株)さいか屋(TSR企業コード:350314209、川崎市川崎区)横須賀店の閉店セール(※4)も支援した。こうした例も含めて、ブランドを毀損しないように在庫を換価する必要があり、様々な商流のノウハウを活かした支援を継続している。

※4 当初、閉店する方針だったが、営業継続を望む声が地元住民から多く寄せられ、2021年3月に規模を縮小して「SAIKAYA YOKOSUKA SHOPPING PLAZA」として再スタートした

藤川快之・執行役員

―事業再生の支援については

(堀内)事業再生や成長資金への融資に力を入れている。我々は有担保で実行するので、譲渡登記にGBJの名前が出ることになる。もちろん既存金融機関とは事前に協議して設定する。譲渡担保が付けられると「信用が低下している」と思う取引先もあるが、しっかりと評価し、ニューマネーを投入して当面は一定の流動性が保たれることがポジティブに受け止められる。我々がニューマネーを出しても再建できず法的整理となる企業もごく一部あるが、殆どのケースでは全額回収できている。
これまでのパフォーマンスは、2012年1月~2021年12月までの10年間で、融資実行は74件。うち、法的整理となったのは8件だ。平均利回りは8.89%/年、貸倒損失は0.44%(累計)で、年間換算0.04%と非常に低い。

―今回のオーサムでは、GBJ自ら出資して事業会社を経営することで注目を集めた

(堀内)出資して自ら事業する支援は過去に数件手がけている。在庫等の資産価値ベースで投資を行い、その後在庫管理などでキャッシュフローを改善させてターンアラウンド(事業再生)を進め、エンタープライズバリュー(事業価値)を高めることを目指している。ハードルは高く簡単ではないが、これまでのノウハウを活かしてターンアラウンドを進めていきたい。
(藤川)全体として窮境に陥った企業でも、価値のある事業・資産・雇用があるなら一部でも残すための支援をしたい、という思いでやっている。我々が融資または出資しなければ、行き詰まっていただろう、というケースもある。ほぼ全てのケースで、金融機関や再生会社、取引先等から要請を受けて支援をするのであって、既存の金融機関を押しのけるわけでも、売り込む立場でもない。資金需要と供給にギャップがある企業から求められて入っていく。金融機関の追加融資の難しい先へ支援することがGBJの存在意義。
(堀内)借入の財務制限条項や債務超過などはあまり気にせず、在庫など動産の価値を総合的に判断して支援を決めている。ABLでも、エクイティ(出資)でも、支援方法は柔軟に対応できる。さらにGBJでは経営者責任を問うことも基本的にない。経営者責任を問うのは既存の債権者だ。

―事業再生ファイナンスへのニーズは高まっている一方、競争も激しくなりそうだ

(堀内)注目は集まるだろう。ただ、リスクの高いところに安い金利で融資したら、個別案件は成功しても、トータルでは失敗する。
(藤川)GBJは、融資以外にも強みがあるので、無理な競争はしない。

―事業成長担保権(※5)など、新しい融資実務に向けた議論が活発だ

(堀内)事業成長担保権は企業価値と融資額がマッチしない問題を解決できる可能性がある。ただ、これを活用したファイナンスの広がりは速くないだろう。米国では、全資産担保で1行貸しになると企業と金融機関が親密になり、例えば粉飾決算はやりにくくもなると聞く。また、セカンダリーマーケットも発展するだろう。シンジケートローンも担保条件に違いがなくなり、今よりやり易くなる。
事業成長担保権でLBO融資先が破たんした場合、事業を継続するなら民事再生法よりDIP型の会社更生法が増えるだろう。新規融資の貸し手に優先的な地位を与えるため、DIPファイナンスも入れやすくなる。

※5 2023年2月2日、金融庁は金融審議会で議論していた「事業成長担保権」(仮)の概要を公表した。有形資産を持たないスタートアップや事業承継時の資金調達手法の多様化を念頭に置いている。堀内社長はワーキンググループの委員

田尾逸人・ディレクター

―今後の倒産動向について

(堀内)金融緩和が続き生き延びている企業が多いが、優勝劣敗が加速してきた。倒産は増えているが、現在は規模の小さな企業の破産が中心だ。今後は、中小、中堅など規模の大きな倒産が出てくるだろう。
最初は私的整理で再生を目指すが、難しい企業が法的整理に進むケースが増えるとみている。
(藤川)また、コロナ禍の金融支援は「社会的に応じないといけない」という大義名分があった。独自で判断する金融機関も出てきており、これから全行一致は簡単ではなくなるかもしれない。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年6月15日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

© 株式会社東京商工リサーチ