社説:物流危機対策 スピード感もって具体化を

 「このままでは現状の荷物の2割は運べなくなる」。建設資材の搬入を手がける東京の運送会社社長は、取引先の建設会社に苦境を訴えている。

 来年4月からトラック運転手に、残業の上限を年960時間とする規制が適用される。

 過酷な労働環境の改善につながる一方で、運転手1人が運べる荷物は減ってしまう。いわゆる物流の「2024年問題」が起きるからだ。

 従業員を増やそうとしても、低賃金や過重労働がネックとなって、新規採用は難しい。高齢化も進み、担い手の減少が深刻になっている。

 これらは、業界全体の悩みでもある。何の対策も講じなければ、24年度には14%、30年度は34%の輸送力が不足する恐れがあるとされている。

 規制の適用開始までに残された期間は、10カ月を切った。対応を急がなくてはならない。

 政府は、関係閣僚会議を開いて政策パッケージをまとめた。大きな柱は、スムーズな輸送を妨げる宅配便の再配達を、できる限り減らす取り組みである。

 再配達率を、現在の12%から6%に半減させることを目標に掲げた。宅配ボックスの普及に努めるとともに、コンビニやガソリンスタンドなどでの荷物の受け取りを促す。

 ユーザーの多いインターネット通販で、IT大手は「最短お届け日」より数日遅い配送日を指定すると、ポイントを付与するサービスを展開している。

 これに倣って、同様の取り組みを行う事業者に対して、財政支援することも視野に入れて検討を進める。

 併せて、通販などで見受けられる「送料無料」の表示を見直し、利用の抑制を図る。

 いずれにせよ、輸送にかかるコストについて、消費者に認識を深めてもらえるかどうかが、成否の鍵となろう。

 物流業界が人手不足となった背景には、配送を依頼するスーパーやメーカーなどの荷主に対して、仕事を請け負う運送業者が圧倒的に弱い立場に置かれていることがあるという。

 ほとんどが中小零細業者で、仕事を受注するには、安い運賃や長時間の待機といった荷主側の要求をのむしかない。

 そこで政策パッケージに、輸送に関する取引を監視する「トラックGメン」制度の創設も盛り込んだ。国が告示する「標準的な運賃」の活用状況を調べ、荷主に適正な取引を求めていく。

 ただ、長年にわたる商慣習が一朝一夕に改まるとは考えにくい。粘り強く取り組んでいくことが肝要だろう。

 交通経済の識者は、今回、政府が示したのは対策の項目だけで、それぞれに財政支援策が欠かせない、と指摘する。

 政策の具体化に向けて政府と関係者は、スピード感をもって議論してもらいたい。

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