カズ、退団のイニエスタに花束 特別な思い共有「やっぱり出たいよね、試合」 本拠のルヴァン杯で

Jリーグのキックオフカンファレンスで壇上に並んだ神戸のイニエスタ(左)と横浜FCの三浦知良=2020年2月、東京都内

 18日に行われたJリーグのルヴァン・カップ「ヴィッセル神戸-横浜FC」の試合前、両チームでプレー経験があるサッカー元日本代表FW三浦知良(56)がスーツ姿でピッチに姿を見せた。

 思わぬレジェンドの登場に、会場のノエビアスタジアム神戸が沸いた。

 その後、カズは室内へと戻り、退団を表明しているイニエスタに花束を渡して抱き合った。

 1週間前にも、カズは関西にいた。

 「カズや!」「えっ、なんでこんなとこおるん?」「マジか!」

 場所は大阪。自主トレーニングを終えると、グラウンドの外にはすぐに200人ほどの人だかりができた。休日とあって、近くでサッカーの試合を終え、帰宅しようとしていた親子連れが多い。

 長年支えるマネジャーやトレーナーが列を整え、カズは子どもたちが着ていたTシャツやスマホケースに次々とサインをしていく。

 満面の笑みを浮かべる子、ガッツポーズで喜びを表現する子、興奮した様子でどこかに電話する子。その親も子どものように目を輝かせ、列に並んでいた。

 ファンサービスを終えてロッカールームに戻り、両足のアイシングを始めたところでカズに話を聞いた。

 ポルトガル2部オリベイレンセへの半年間の期限付き移籍を終え、日本に戻って10日ほど。帰国して思うことは何かを問うと、56歳のレジェンドは「時間は確実に流れていっているんだなと思いますね」と実感を込める。

 サッカー文化が根付くポルトガルでの日々を振り返るとともに、今後プレーするチームを決めるにあたって「やっぱり目標を達成するため、勝つために自分を必要としてくれるところだね」と判断基準を挙げた。

 そして、話は最近のJリーグの大きなトピックとなったイニエスタのヴィッセル神戸退団に及んだ。

 2人の初対面は2020年2月のJリーグ開幕前イベントだった。シーズン開幕戦をノエビアスタジアム神戸で戦うヴィッセル神戸と横浜FCの看板選手として壇上に上がり、カズがイニエスタに「僕にもパスをください」と冗談交じりに語ったことが話題となった。

 この時交わした食事の約束が2年半後、神戸で実現した。

 昨年の秋、2人は神戸で食事を共にしている。誘ったのはイニエスタ。夜、カズは三宮にあるスペイン料理屋に招かれた。

 カズはJ3の一つ下のカテゴリー、日本フットボールリーグ(JFL)の鈴鹿ポイントゲッターズで出場時間を伸ばし、移籍後初の関西での凱旋試合を京都で終えた後、オフを利用して神戸を訪れた。

 食事中、イニエスタから「スペインには、景色がきれいな場所があるから連れて行きたい」と誘われた。カズが思い出に残るゴールを聞くと、「2010年のワールドカップ(W杯)決勝で決めたゴールだ」と返ってきたという。

 イニエスタは当時、けがで欠場が続いており、一方でチームは厳しいJ1残留争いを乗り越えるべくメンバーを固定して結果を出し始めていた。そんな境遇も影響したのだろう。サッカーの話になると、言葉が自然と熱を帯びた。

 カズが振り返る。「言葉の端々にもっと試合に出て勝利に貢献したいという思いを感じたね。ずっとバルセロナやスペイン代表で主力としてやってきた選手だもん。やっぱり出たいよね、試合。俺もそうだもん。今でも」

 5月の退団会見で、イニエスタは「まだまだピッチで戦い続けたい。チームに貢献するための準備はできていたが、それぞれの歩む道が分かれ始め、監督の優先順位も違うところにあると感じ始めた。ただ、それが自分に与えられた現実であり、リスペクトを持って受け入れた。最終的には現実と自分の情熱をかけ合わせた結果、ここを去るのがベストな決断だと決めた」と理由を語っている。

 カズはその心情に理解を示しつつ、こうも言った。

 「僕は監督じゃないから分からないけど、首位を争う神戸がこれから優勝するために、一発で局面を変える力を持っているイニエスタの力は必要だったと思うし、それを僕も楽しみにしていた。最後の試合はホームだよね? 神戸に見に行きたいなあ」

 「それと神戸サポーター、(規模が)大きくなったよねぇ。歴史を積み重ねてね。この前(10日に)ヨドコウにセレッソ戦を見に行ったんだけど、そう実感したよ」

 18日の試合でイニエスタはベンチ外だったが、同じ「神戸の顔」としてクラブ史にその名を刻むカズも、特別な思いを抱いて背番号8の名手に会いに駆け付けた。(小川康介)

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