コロナで消えた「甲子園の夢」再び 独自大会「あの夏を取り戻せ」開催へ、元球児ら7000万円募る

記者会見に臨んだ(左から)大武優斗さんと宮階宣全さん、応援に駆け付けた古田敦也さん=東京都江東区、武蔵野大有明キャンパス

 あの夏を取り戻したい-。新型コロナウイルス禍で2020年に中止になった夏の全国高校野球選手権大会を再現したいという元球児の願いが結実し、11月29日に西宮市の甲子園球場で独自の大会が開かれる。1人の大学生が呼びかけた計画に、同じ学年の約千人が賛同し、球場に集う。発起人の大武優斗さん(21)は「悔しい思いを持つ仲間と、やりきったと実感したい」と熱い気持ちを語る。(堀内達成)

 3年前の20年5月、夏に開催予定だった全国高校野球選手権大会は、戦後初めて中止が決まった。当時、東京・城西高校の野球部3年だった大武さんは「全てを懸けていた夢が消え、絶望した」と振り返る。

 その後、東京・武蔵野大アントレプレナーシップ学部に進み、起業を学んだ。自身で会社を立ち上げ、「自分にしかできないことは何か」と考えると、不完全燃焼で終わった「あの夏」が頭をよぎった。

 仲間とともに完全燃焼したいと、昨年8月にプロジェクトを始動。大会中止が決まった後に各地で独自の大会が開かれたが、そこで優勝したチームの球児たちに交流サイト(SNS)で連絡を取り、全国行脚をして訪ねた。途中で資金が尽き、食パンだけを食べて1週間をしのいだり、取材を受けた記者からお金を借りたりして旅を続けた。

 賛同の輪は広がり今年3月、「あの夏を取り戻せ~全国元高校球児野球大会」の開催が決まった。大会は11月29日~12月1日の3日間。初日の11月29日は甲子園球場で、参加チームから抽選で選んだ2チームによる試合やセレモニーを想定する。30日と12月1日は、兵庫県内の複数の球場で交流試合を計画している。

 5月には武蔵野大で大会に関する記者会見があった。大武さんとともに活動する明石市出身で、敦賀気比高(福井県)OBの宮階宣全さん(21)も会見に出席。目標を見失った当時を思い出して目頭を押さえ、「この大会で、野球に懸けた人生に区切りをつけたい」と語った。

 会見には、ヤクルトスワローズで選手と監督を務めた川西市出身の古田敦也さんも駆け付け、「素晴らしい。役に立ちたい」と述べて元球児らを激励した。

 大武さんらは、会場使用料や元球児の交通費など大会運営費用を約7千万円と見込む。資金提供を申し出る企業もあるが「自分たちの手で実現したい」として現在は返事を留保しているといい、クラウドファンディングで12月1日まで資金を募っている。

兵庫からは三田松聖OBが出場

 11月29日~12月1日に甲子園球場などで開催される独自の野球大会「あの夏を取り戻せ」には、兵庫県からは三田松聖(三田市)が出場する。2020年に中止となった全国高校野球選手権大会兵庫大会に代わる「夏季兵庫県大会」でベスト8に進んだチームで、大会を心待ちにしている。

 代替大会だった兵庫大会は日程上の理由で8強が決まる5回戦までが行われ、三田松聖のほか、神戸第一、報徳、神戸国際大付、県尼崎、神港橘、東播磨、赤穂に「敢闘賞」が贈られた。

 三田松聖のまとめ役を務める大学生の京田真慶さん(20)によると、残りの7チームのメンバーは日程などで都合がつかず参加は難しかったという。京田さんは白球を追った2020年の夏を振り返り、「チームの状況は良かった。『本番があれば一体どこまで行けたのか』と、今でも思う。どんな形にしろ、全国規模の大会に出場するのは楽しみ」と話している。

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