<社説>「不同意性交罪」成立 性暴力根絶への一歩だ

 性犯罪規定を大幅に見直す改正刑法などが参院本会議で全会一致により可決、成立した。強制性交罪などを「不同意性交罪」に名称変更し、同意のない性行為は犯罪であると明確にした。被害に遭った当事者たちの声が結実した法改正であり、性暴力根絶に向けた一歩と評価したい。 法改正では、「不同意性交罪」の処罰要件を「同意しない意思を形成、表明、全うすることのいずれかが難しい状態」とした。被害実態に即し、暴行・脅迫やアルコール・薬物の摂取のほか上司と部下といった関係性の悪用、突然襲われて不同意を示せないケースなど8項目の要因を示した。これらに「類する」場合も処罰する。

 現行の強制性交罪の暴行・脅迫といった要件に関し、被害者らは、捜査機関や裁判所の判断にばらつきがあるとし、被害の実態に即していないと批判していた。8項目が具体的に示されたことで、客観性を担保し、裁判官の判断のばらつきがなくなることが期待される。

 また、子どもの性被害を防ぐため、性的行為に同意できるとみなす「性交同意年齢」を13歳から16歳に引き上げた。性的部位や下着などの「性的姿態撮影罪」や、わいせつ目的で16歳未満に金銭提供を約束するなどして手なずける「面会要求罪」も新設する。

 性犯罪規定が大幅に見直された背景には、被害に遭った当事者たちの切実な訴えがある。2019年、性暴力被害を訴えた裁判で無罪判決が相次いだ。福岡地裁久留米支部は、女性が抵抗できなかった状況を認めながらも、男性は女性が合意していたと勘違いしていたとし無罪を言い渡した。娘に性的虐待をしていた父親が無罪になった名古屋地裁岡崎支部のケースでは、裁判所は「抵抗しようと思えばできた」と結論付けた。

 これらの判決を受け、法制度や性暴力に無理解な社会に抗議する「フラワーデモ」が沖縄を含む全国各地で開かれた。当事者や支援者の活動が法改正につながった。今回の改正に、当事者からは「加害者に都合のいい解釈にノーを示せる」と評価の声が上がる。

 性暴力は「魂の殺人」とも呼ばれる。身体的な苦痛を与えるだけでなく、被害者は心に深い傷を負い、長く苦しみ続ける実態がある。今回の刑法改正は、性暴力根絶に向けた一歩だが、真に求められるのは社会の意識改革だ。

 同意のない性行為は犯罪であるとの認識を社会全体で共有し、被害者に対し「あなたは悪くない」「あなたは一人ではない」と伝えることのできる社会を目指さなければならない。そのために性教育の抜本的見直しが必要だ。

 公訴時効も5年延長されたが、自責の念などから申告をためらう人も多く、さらなる延長を検討すべきだ。被害を訴えやすくし、被害者に寄り添った行政の支援拡充も求められる。

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