スシロー「6700万円」賠償請求 “法的責任”は「少年が負う」 支払えなければ“破産”も選択肢に?

なぜしょうゆボトルをなめようと思ったのか…

今年1月、回転ずしチェーン「スシロー」を訪れた客の少年が備え付けのしょうゆボトルをなめる動画が拡散した騒動で、スシローを運営する「あきんどスシロー」が少年に対して約6700万円の損害賠償を求め、今年3月22日付で大阪地裁に提訴していたと、8日に報道された。また9日には、スシロー側は損害賠償額を増額する方針であるとも報道があった。

法的な賠償責任を負うのは少年

少年が未成年であることから、SNSやネットニュースのコメントでは「賠償責任は少年の保護者が負うことになる」とする声もあるが、企業法務に詳しい杉山大介弁護士は「民法上の責任能力は712条の解釈より12歳ぐらいから認められるので、未成年だからというのは誤りがあります。今回の場合、法的な賠償責任を負うのは少年だけです。少年が払うかどうかという話になります」と指摘する。

民法712条は「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」と定めているが、実際の裁判例では杉山弁護士の指摘するように、12歳程度から責任能力があると認めているケースが多いようだ。

それにしても、少年が6700万円という大金を支払うのは、普通に考えれば不可能だろう。もし裁判でスシロー側の損害賠償請求が認められた場合、どうなるのか。

「払わない場合、いつまでも債務を抱えるのを回避すべく破産を検討することになりますね。この不法行為が破産法253条1項2号の『非免責債権』にあたるのかは、『悪意』という文言の解釈を巡ってやはり争点になるでしょう(※)」(杉山弁護士)

※ 破産法253条1項2号は「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」については破産債権の責任を免れられないとしている。

たった一度の過ちに「6700万円」は“酷”?

飲食店での迷惑行為や動画の拡散は、今回スシローに提訴された少年のケースが発生する以前から現在に至るまで、数多く発生している。今回の訴訟は「見せしめ」的な側面もあると思われるが、少年のたった一度の過ちに対して企業が「6700万円」という高額な損害賠償を求めることについて、杉山弁護士はどのように考えるのだろうか。

「法的に認められる損害の範囲は、予見可能であったかという点が重要なポイントになってきます。昨今のネット炎上事例の累積からすると、この予見可能性があったという主張が、おいそれとデタラメだとは言えないものになってきます。法的な論理を徹底するなら、あくまでどの損害について、どれほどの予見可能性があったかを淡々と検証すべきで、常識感覚で外野が多いか少ないかを論じるものではありません。

また、私は日本の従来の法律で認められる常識的な損害額だと、結局被害を受けた側は損を取り戻すのがやっとで、たいていの場合は取り戻すのに必要だったコストがかかって赤字になってしまうことを知っているため、この訴えを否定する気になりません。常識的なバランス感覚で言うなら、少年にも『破産』というやり直しの手段を認めるのが、むしろ妥当な筋道な気もします」(杉山弁護士)

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