狼を“目力”でビビらせることができるのはジェニファー・ロペスだけ!Netflix『ザ・マザー:母という名の暗殺者』

Netflix『ザ・マザー:母という名の暗殺者』独占配信中

“ツッコミどころ”という魅力

子供の頃から「金はかけまくっているが、中身はシンプル極まりない娯楽作」が好きなので、いわゆるハリウッドの大作映画ばかり見ている。

昔から今日に至るまで何かが爆発し、飛行機も車もどんどん破壊されるハリウッドの大作映画だが、最近のものはなんだかんだでよくできていると思う。

SFやアクションシーンだけでなく、練りに練られたストーリー、しっかり回収する伏線。2時間半の長尺でも飽きさせないように工夫して作られている。

実際、記事を書いていて「ツッコミどころがないなぁ」と困ることもしばしばある。その点、俺が子供時代を過ごした80年代~90年代の映画は良くも悪くも雑だった。

・車も人命も吹っ飛んでいるが肝心の戦う目的があまり語られない
・冷静な判断が一切できない主人公
・思わせぶりに語られるが特に回収されることはない伏線
・装弾数という概念のない銃

そして一番重要なのは「作っている側はふざけているつもりは一切ない」ところだ(『ワイルドスピード』や『ジョン・ウィック』シリーズ、マイケル・ベイ監督のように人智を超越した作品はあるが、あれらは熟考した上であえてそのように作られていると思う)。

作っている側は大真面目だが、どう考えてもおかしい。それがツッコミどころになり味になる。映画として“良い・悪い”ではない。「俺は一体何を見せられているんだ!?」と、笑いや感動と共に大きな疑問が残る映画……。

最近はテレビで映画が流れないし、そんな作品に出会いにくくなった……と思っていた矢先に出会った。Netflixオリジナル映画『ザ・マザー:母という名の暗殺者』だ。

Netflix『ザ・マザー』はどんな映画?

『ザ・マザー:母という名の暗殺者』の主演はジェニファー・ロペス。大御所歌手として有名だが、元は俳優としてキャリアをスタートさせており、『ハスラーズ』(2019年)でゴールデングローブ賞の候補にもなったアメリカショービジネス界の重鎮だ。

本作は配信されて時間も経過しているので、俺の心を魅了してやまなかったシーンを中心にじっくり書こうと思う。

※彼女は「ジェン」「J.Lo」という愛称で親しまれているが、ここでは敬意を称して「姐御」と呼ばせて欲しい。

映画冒頭、FBIによる保護のもと情報提供している姐御。どうやら命を狙われているらしい。

映画開始3分(実際に計った)でFBIが襲撃されるが、姐御は焦らず撃たれた捜査官を応急処置。洗面台にある洗剤やらで爆発物をテキパキと作るあたり、かなりの猛者らしい。

何とか襲撃から逃げた姐御、実は身重だった。腹を刺されながらも無事に子供を出産したが、証人保護のため親権を放棄。子供はFBIの監視下で育てられ、自身はアラスカで隠遁生活をすることに。

狼を“目力”でビビらせることができるのはJ.Loだけ

――12年後、アラスカの厳しい自然で狩りをして自給自足の生活をする姐御は、同じ獲物を狙っていた狼と遭遇。狼がこちらを睨んでいる……まずい、これは逃げないと! という俺の心配をよそに、姐御も睨み返す!!

なんと、狼が帰っていった! 狼を“目力”だけでビビらせることができるのは、ジェニファー・ロペスだけだろう。

ある日、FBIから手紙が届き、かつて彼女の命を狙っていた組織が、娘ゾーイの命を狙っていることが発覚する。

幸せに育っているゾーイの成長を遠くから見守りながら、組織からの刺客を次々と狙撃し、盗んだ車で体当たりする姐御。「一人残らず殺してゾーイを(育ての)両親の元に返す」と常人離れした母性を大爆発させる。

そして姉御は、キューバでの戦闘にナイフで刺されたFBI捜査官のウィリアム(12年前に撃たれて手当した人と同じ)を手当しながら過去を語る。

……アフガニスタンで出会ったSASの元上官エイドリアンと、米軍基地で出会ったエクトルという二人の男。「退役後の将来を考えて」武器商人になろうと考えていたが、人身売買もしていたことが発見し通報した……。

ゾーイの父親はエイドリアンとエクトル、どちらかは分からない。ちなみにこの時、ウィリアムが姐御を誘っているのだが、特に何も起こらない。まったりとした雰囲気の中、男からの誘いは壮絶な過去を語ってさりげなくかわすのが姐御のスタイルだ。

そんなこんなで画面から飛び込んでくる情報量が多すぎて観ているこちらは頭が整理できないが、とにかく「娘のために、武器商人たちは娘の実の父親かもしれないけど皆殺しにする」とのことだ。

娘との再開、抜群の勘の良さでガンガン進む物語

父親候補その2ことエクトルを護衛ごと皆殺しにし、アジトにて誘拐されていたゾーイを保護。ついに愛娘と対面するが、速攻で「ママなの?」と声をかけられる。異常に勘が良過ぎるゾーイに「ち、違う!」と動揺しながらFBI捜査官に彼女を託し、その場を去る。

わずか1分の娘との再会に一人、涙する姐御。娘の幸せのためには、もう会わないと誓う涙だ。

ところが翌朝、ゾーイは父親候補その1ことエイドリアンに拉致される(別れる際に「6時間ほどで家に帰れる」と言っていたので超短期間のうちに襲われたことになる)。ウィリアムも凶弾に倒れ、まさに絶体絶命の中……

あっ! ハーレーに跨った姐御がやってきた!!

『ターミネーター2』のシュワルツェネッガーばりに、片手でゾーイを担いでハーレーに載せる大技を見せる姉御。

ふたたび抜群の勘の良さでガンガン話が進んでいく。そして「FBIじゃ、この子は守れねぇ!」と判断し、ゾーイをアラスカで猛特訓することに。

狩猟で手に入れた鹿の肉を「食べない」とごねるゾーイに、「食べ物は暴力なしには得られない」と教える姐御(その後の「豆腐は? チーズは?」というゾーイからの問いにも完璧な回答をするので必見)。

「何度も力尽きて、そのたびに限界を越えろ」金言だらけのサバイバル塾

「憎しみを力に変えろ」
「何度も力尽きて、そのたびに限界を越えろ」
「怖いか!? やれ!!」

と金言だらけの姐御サバイバル塾。その結果、最初は「家に帰りたい」と言っていたゾーイも、みるみるうちに逞しくなっていく。車の運転のみならず銃やナイフの取り扱い、地雷作りまでできるようになった(秒で「ママだよね」と看破し、姐御の連絡係である売店のおじさんも「あの人知り合いでしょ? スパイ同志で話してるみたいだった」と見抜くあたり、かなりの素質があったのだろう)。

そんな幸せ(?)な日々もつかの間、狼に手を噛まれたゾーイが病院の診察で思いっきり本名を言ったために情報漏洩。2人の居場所がバレてしまう。

ゾーイを避難させ、追ってきたエイドリアンたちをランボーばりに家で待ち構える。アラスカの雪山を戦場に、傭兵たちを次々と血祭にあげる姐御。そして逃げることなく加勢するゾーイ(訓練=母の愛が伝わった最高の結果だ)。

もちろんエイドリアンとは武器を捨てて肉弾戦だ! 果たして彼女たちの運命やいかに!?

必要なのは、観る者の心を惹きつける人間力

ここまで書いてきたが、姐御が執拗に命を狙われる詳細な理由は不明だ(人身売買を通報したことで何かあったのだと思うが、娘まで命を狙われる理由はわからない)。

ストーリーのロジックなんて言葉は知らん、とばかりに姐御の心意気でもってゴリ押し展開。映画としてはおかしいのかもしれない。しかし、姐御の“人間力”が全てを超越する。

本作には、かつて80~90年代にスタローンやシュワルツェネッガーたちが築いたアクション映画のグルーヴがある。丁寧な伏線回収なんていらない。もはや脚本すらいらない。必要なのは、観る者の心を惹きつける人間力だ。

本作のジェニファー・ロペスは、とにかくカッコいい。アクションだけでなく、彼女が放つ熱い言葉にも異常なほど説得力がある。

この記事を書くにあたって、同じくNetflixで配信されている彼女のドキュメンタリー『ジェニファー・ロペス:ハーフタイム』(2022年)も観たが、やはり現実の彼女も『ザ・マザー』の姐御そのものだった。

「歳なんてただの数字」そこにいるだけで人を惹きつけるJ.Lo

90年代後半から00年代にかけて、その実績よりも奔放な恋愛やわがままな言動ばかりがゴシップのネタにされていた時期もあったが、『ハスラーズ』のローリーン・スカファリア監督の「(彼女は)とてつもない努力を平気でするから見過ごされる」という言葉が全てなのだろう。

今の時代なら大炎上する話だが、尻の大きさばかりネタにされていた時期もあり、その様子はセクハラを超えていた。姐御は語る。

「私はどれだけ侮辱されても負けない、批判されても立ち続けるJ.Lo」

スタローンやシュワルツェネッガー同様、姐御はそこにいるだけで人を惹きつける。ゴールデングローブ賞を逃した時も落ち込むスタッフを気遣い、翌朝には黙々と筋トレに励んでいた。姐御は現在53歳。“歳なんてただの数字だ”と言わんばかりに挑戦し続ける。

『ザ・マザー』の劇中で睨み合った狼が姐御と最終的に心を通わせたのも、演出ではなく真実なのだろう。

――最後に、劇中で描かれる娘への手紙の一文を紹介したい。

ゾーイへ

母親としてあなたを命がけで守る。
過ちだらけの人生であなたを生んだことが誇り。
鏡に映るあなたは強さの証
愛してる。

ママより

「鏡に映るあなたは強さの証」……なんてカッコいい言葉なんだ。ジェニファー・ロペス、あなたについて行きます。

文:デッドプー太郎

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