仕事と育児の両立支援 企業の半数が「業務に支障」、「支障あり」最多は「3歳までの在宅勤務」が4割

~ 2023年「少子化対策」に関するアンケート調査 ~

政府が進める少子化対策で、仕事と育児の両立支援について企業の半数(49.9%)が「業務に支障が出る」と回答した。また、在宅勤務や残業免除権の拡大など、両立支援の拡充は、従業員数が多い企業ほど懸念が大きいことがわかった。

東京商工リサーチ(TSR)は6月1~8日、全国の企業を対象に「少子化対策」に関するアンケート調査を実施した。「3歳までの在宅勤務」「3歳までのフレックスタイム制の適用」「就学前までの残業免除権の拡大」のうち、1つ以上の導入で「業務に支障が出る」と回答した企業が半数(49.9%)を占めた。コロナ禍を契機に在宅勤務やフレックスタイム制が広がり、仕事と育児の両立支援の地盤は整いつつある。だが、建設業、製造業、対面サービス業など労働集約型産業を中心に、両立支援は業種間で負担に濃淡が分かれた。

また、従業員数別では、「300人以上」で「支障あり」が59.7%と最も高く、従業員数が少ないほど「支障あり」が下がる傾向がみられた。大企業は女性の雇用拡大に取り組んでいるほか、責任ある職務に就いた社員のカバーが難しいことも背景にあるようだ。一方、中小・零細企業は、子育て世代の女性雇用数が少なく、出産や育児への支援の影響が大企業より小さいとみられる。さらに、中小・零細企業ほど、男性を含めた子育て関連支援制度の整備が進んでいないことも要因として挙げられる。

政府の支援策の拡充で仕事と育児が両立しやすくなることが期待される。だが、資金的な制約で支援策の導入が難しい企業では、子育て世代の働き手の雇用を抑制することが懸念される。従業員の働き方に加え、子育て世代の従業員採用への支援を抱き合わせた制度の検討も必要だろう。

※本調査は、2023年6月1日~8日インターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答5,283社を集計、分析した。
※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。今回調査が初の実施。


Q.少子化対策として、3歳までの子どもを持つ従業員の在宅勤務やフレックスタイム制の適用、就学前までの残業免除権の拡大などが検討されています。導入した場合、貴社の業務に支障が出そうなものは次のどれですか?(複数回答)

「支障あり」が約5割 最多回答は「在宅勤務」の38.1%

「3歳までの在宅勤務」「3歳までのフレックスタイム制の適用」「就学前までの残業免除権の拡大」のうち、1つ以上で「支障あり」と回答した企業はほぼ半数(49.9%)を占めた。

「支障あり」と回答した企業の規模別では、資本金1億円以上(大企業)が51.9%、同1億円未満(中小企業)が49.6%で、大企業が2.3ポイント上回った。ただ、規模を問わず、仕事と育児の両立支援策が業務に支障が出る企業は約半数となった。
支援策別では、「支障あり」の回答率では、「3歳までの在宅勤務」が38.1%と最も高かった。次いで、「3歳までのフレックスタイム制の適用」が26.1%、「就学前までの残業免除権の拡大」が23.7%だった。
コロナ禍で経験した「在宅勤務」については、社内コミュニケーションなどへの影響も指摘されており、効率化には弾力的な運用も必要だろう。

従業員が少ないほど業務に「支障あり」が低い

従業員数別では、「支障あり」が最も高かったのは「300人以上」の59.7%。一方、「5人未満」は25.7%で、「300人以上」とは34.0ポイントの開きがあった。
従業員数が少ないほど「支障あり」と回答した企業が低かった。中小・零細企業は、従業員の高齢化や採用難などで少子化対策の両立支援策が必要な年代が少ないことも要因と思われる。
支援策が広がると従業員が育児に取り組みやすくなる一方、中小・零細企業では出産・育児を行う世代の雇用をさらに抑制することが危惧される。

「支障あり」が5割以上は、製造業など3産業

産業別では、「支障あり」が最も高かったのは「製造業」の55.3%。次いで、「建設業」52.8%、「小売業」52.4%の順で、3産業が過半数を超えた。
上記3産業を支援策別でみると、「3歳までの在宅勤務」の回答比率が高く、「製造業」42.6%、「建設業」38.7%、「小売業」39.3%と4割前後で並んだ。
工場や工事現場、店舗での業務は在宅での対応は難しく、仕事と育児の両立支援策では細やかな現場の実情把握も必要だろう。

最高は「学校教育」の8割

業種別(母数10社以上)では、「支障あり」が最も高かったのは「学校教育」の81.8%だった。コロナ禍でリモート授業も一部浸透したが、大半の授業開始時間が固定であること、対面が必須の授業も多いことから、在宅勤務やフレックスタイム制の導入が難しい現実を示している。
また、5位「宿泊業」(構成比65.0%)、9位「社会保険・社会福祉・介護事業」(同63.1%)、「飲食店」(同61.2%)など、対面サービス業の構成比が高かった。
このほか、2位の「家具・装備品製造業」(同78.2%)、6位の「パルプ・紙・紙加工品製造業」(同63.8%)など、製造業が上位15業種のうち、7業種を占めた。人手不足が解消しないなかで、製造ラインの人員見直しが難しいことを浮き彫りにしている。

© 株式会社東京商工リサーチ