社説:半導体戦略 巨費投じるリスクも説明を

 政府は「新しい資本主義」の実行計画を改定した。日本企業や雇用慣行の転換をうたう項目が並ぶ中、特異なのが半導体の記述である。「戦略分野」と位置付け、予算と税制面で支えるとした。

 半導体世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の熊本県新工場誘致に4760億円を、次世代半導体の国産化を目指す新会社「ラピダス」の開発費や、北海道千歳市での工場建設には3300億円を助成する。

 米半導体大手マイクロン・テクノロジーの広島工場には最大464億円を支援する。その工場での次世代半導体製造に、政府は数千億円規模の追加支援を検討中とされる。

 岸田文雄政権下の半導体助成は、既に1兆円を上回る。

 ラピダス側は5兆円規模の資金が必要としている。TSMCは熊本県に第2工場を建設すると発表したが、日本政府の助成を期待してのことだ。

 「産業のコメ」と呼ばれる半導体は、ものづくりに欠かせない基盤だ。しかし、浮き沈みが激しい分野でもある。巨額の税金を民間企業に集中投資する以上、リスクを含め政府は国民に説明を尽くさねばならない。

 改定計画は着工間もないTSMC熊本工場について、投資や雇用が拡大し、九州の賃金が上昇したとして好事例と自賛するが、前のめりな姿勢を危ぶむ。今後の人材育成や展開の見通しなど冷静な分析こそ求めたい。

 1980年代に半導体で世界市場シェアの半分を占めた日本が、米国や韓国などとの競争に敗れ、低迷してきたのはなぜか。国家事業として半導体産業の復活を目指し、NECと日立製作所のDRAM部門を合弁したエルピーダメモリを支援しながら、2012年に経営破綻した教訓は生かしているのか。同じ轍(てつ)を踏むことは許されない。

 経済産業省は、20年時点で5兆円規模の半導体企業の総売上高を、30年に15兆円にするとの数値目標を掲げる。だが、ロシアのウクライナ侵攻で世界的に半導体不足が叫ばれたが、今は供給がだぶつく局面に転じた。半導体需給の荒波は予見しがたく、勝者であり続けることも困難な歴史を見据え、したたかに日本の強みを育むべきだ。

 世界の半導体供給網で日本企業が力を発揮できる分野や、未踏の関連技術に挑む基盤づくりこそ、政府が国費で後押しする意義があるのではないか。

 来月には、先端半導体分野23品目の輸出規制を強化する外為法の省令が施行される。

 海外先端企業や研究者の誘致と、海外流出リスクは表裏一体の問題である。経済安全保障の観点から、民間技術者の機密保持義務付けも、イノベーション促進に背反する面がある。

 先端分野への投資と規制のバランスをどう取るのか。国民に開かれた議論が欠かせない。

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