「ちょっと休む?」 悩みの聞き方、一緒に考えよう 自殺3年連続増、兵庫県がゲートキーパー養成へ

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 2022年に兵庫県内で自殺した人の数が947人(男性630人、女性317人)に上り、新型コロナウイルス禍が始まった2020年以降、3年連続で増えた。特に女性の増加率が高く、育児や介護での孤立や不安定な雇用が原因として考えられるという。県は今年8月から、身近な人の悩みに気付いて支援につなげる「ゲートキーパー」の養成講座を開く。講義を担うNPO法人は「大丈夫?」より「ちょっと休む?」と聞いた方がいいケースなどを挙げながら、悩みの聞き方を一緒に考える。

 

行動制限で孤立か

 県障害福祉課によると、コロナ禍前の19年に自殺で亡くなった人は警察統計に基づき、県内で877人(男性596人、女性281人)。この3年の増加率は女性が12.8%で、男性の5.7%を上回った。全国の自殺者数も19年の2万169人と比べて22年は2万1881人に増え、増加率は男性4.7%、女性は17.1%だった。

 行政や民間が自殺を防ぐために設けた電話窓口には20年春以降、相談件数が急増。同課によると、健康問題や不安定な経済状況に加え、女性からは育児や介護、家庭についての相談が目立った。

 子どもがもともと不登校だという女性は「コロナ禍で先生の家庭訪問がなくなった」とし、家の中での孤立感を打ち明けた。両親を介護する女性は「以前は親戚が手伝いに来てくれたが、今は全て自分一人でしている」と訴えたという。

 同課は「コロナ禍の行動制限でこれまで頼れていたものがなくなり、負担が集中したり、弱い立場の人にしわ寄せがいったりしたのではないか」とみている。

 

変わらず不安な人も

 今年5月8日、新型コロナは感染法上の「5類」に移行。社会は日常を取り戻しつつあるように見えるが、NPO法人「ゲートキーパー支援センター」(伊丹市)の竹内志津香理事長は「社会の流れに乗って気分が明るくなる人もいれば、変わらず不安な人もいる」と指摘。話を聞くときは「自分の価値観を強要せず、個人の気持ちを尊重してほしい」と呼びかける。

 同法人は県の委託を受けて8~10月、「働く人のためのゲートキーパー講座」を尼崎、神戸、姫路市で開く。講師を務める竹内理事長によると、ゲートキーパーの役割は「問題を解決することではなく、悩みを聞いて適切な支援につなぐこと」。「同僚がしんどそうだが、声のかけ方が分からない」「職場のストレスを軽減したい」など、メンタルケアに興味がある人なら誰でも参加できる。

 竹内理事長は「『大丈夫?』と聞いたら、真面目な人は『大丈夫』と答えてしまいがち。『ちょっと休む?』と聞いた方が打ち明けやすいこともある」と話し、講座では悩みの聞き方を共に考えるという。

 講座は、8月4日=尼崎女性センター(尼崎市)▽9月8日=神戸国際会館(神戸市中央区)▽10月13日=アクリエひめじ(姫路市)。いずれも午後1時半~4時半。参加無料。定員は各会場150人。各開催日の3日前までに、同法人のホームページから申し込みが必要となる。

 

対策計画を見直し

 県は今春、新型コロナ禍の経済的、心理的な影響を踏まえ「自殺対策計画」(対象期間18~27年)の中間見直しを実施。自殺者数を27年までに600人以下にするという数値目標は継続し、ゲートキーパー育成のほか、既存の相談窓口の周知にも力を入れる。通信アプリLINE(ライン)の公式アカウント「いのち支える兵庫県」を友だち追加すれば、LINE電話で相談できるアカウントも案内される。

 「電話相談は行政や民間で切れ目なく受け付けている」と県障害福祉課。「ドメスティックバイオレンス(DV)、虐待、労働などテーマごとの相談窓口もあるので、悩んだときは誰かに話してほしい」としている。(金 慶順)

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