<社説>ハンセン病市町村調査 啓発と支援体制構築急げ

 本紙が実施した県内41市町村へのアンケート調査で、その市町村で生活するハンセン病回復者の人数を把握していない自治体が85%に当たる35に上った。高齢化する回復者には医療・福祉両面からの支援が急務だ。しかし、その土台づくりが進んでいない。 把握できていない理由として、回復者やその家族からの申し出がないことや「隠している方が多い」などの回答があった。これらは社会の中に偏見・差別が根強く残っていることが背景にあることを示している。支援体制構築とともに啓発活動強化も急がなければならない。

 県医療ソーシャルワーカー協会の樋口美智子氏は2021年、本紙に「回復者の中には、いまだに根強く残る偏見や差別を恐れ、後遺症や一般の病気になっても、医療機関への受診をちゅうちょし、その結果状態を悪化させることも少なくありません」「医療や介護が必要であるにもかかわらず、サービスや制度の利用につながっていない方々が多くおられることも事実です」と述べている。

 回復者や療養所、支援団体、県、専門家が一堂に会する県ハンセン病問題解決推進協議会が昨年9月に発足した。初会合で回復者から、生活支援の仕組みの構築、家族の問題の現況調査、これまでの国や県の政策の検証、学校教育、医療・介護関係者への啓発活動などが求められた。意見交換では、離島に支援が行き届いていないこと、療養所などにつながっていない回復者の実態把握、後遺症などを介護認定に反映させる仕組みなどの課題が挙がった。その後、2部会に分かれて具体化の議論が行われている。

 支援体制構築と同時に偏見・差別をなくさなければならない。本紙では県内の深刻な事例を報じてきた。回復者であることを家族に隠し、報道にも触れずにいた結果、訴訟も法改正も知らず、補償金請求の期限が過ぎてしまった人。訴訟参加のため息子の妻に打ち明けたところ、息子が離婚に追い込まれ、孫にも会えなくなった人。法律が変わっても、差別のために支援や補償が届かず、家族が引き裂かれる現実がある。

 本紙調査では過去10年間の啓発の取り組みも聞いた。その結果、実施したのは16市町村にとどまった。そのうち7市町村は国や県制作のパンフレットやポスターの配布や設置だけで、学校での授業などの取り組みは3市町村のみだった。県のリーダーシップで、全市町村が足並みをそろえて取り組むべきだ。

 隔離政策がなくなって27年、差別解消などを目的にしたハンセン病問題基本法が施行されて14年が過ぎても、なぜ差別はなくならないのか。教育現場の取り組みも不可欠であり、マスコミにも大きな責任があると自覚したい。回復者とその家族の人権を守る社会にする責任は、今を生きる全ての人にある。

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