神木隆之介が主演を務める映画『大名倒産』が6月23日(金)より公開。
ある日突然、徳川家康の血を引く大名の跡取りだと告げられた青年・小四郎(神木)が、後を継ぐやいなや100億円の借金を背負わされ、その返済に奮闘するコメディ要素満載の時代劇。
笑いの中にもさまざまなメッセージが散りばめられた物語を、演技巧者の神木が、コメディからシリアスまで幅広い表現を持って演じる。また幼馴染役の杉咲花、実の父親役の佐藤浩市、家臣役の浅野忠信、義理の兄弟役の松山ケンイチ、桜田通ら、豪華な共演者たちとの絶妙なコンビネーションも最高! さすが神木隆之介という姿を見せてくれている。
5月19日に誕生日を迎え30代となった神木に、本作を通して感じたことや、これからのことなどを語ってもらった。
ひたすら優しくて相手に寄り添うことができる人
――本作の出演オファーを受けたときの印象を教えてください。
(現在で換算すると)100億円の借金を背負わされて、それを返していくというお話なんですけど、フィクションのような金額ですし、コメディ的な表現がいっぱいできそうだと思って楽しみでした。
ただ台本を読ませていただくと、今にもつながるような知恵や節約術があったり、お金を使いたい人、節約したい人、登場人物それぞれの思惑が描かれていることもわかりました。
確かにこれをすれば節約になるけれど、本来はこうした方がいいよねってことであったり、知恵と義理のどちらかを選ばないといけない場面もあったり。そういうところがまた面白おかしく表現されることで、楽しく観ていただけるんじゃないかと思いました。
――小四郎役を演じるうえで準備をしたことは?
特別に準備したことはなかったです。コメディ色が強くて「ヤバイ」「マジかよ」とかの現代の言葉も台本の時点からセリフに入っていたし、江戸時代のお話ではありますけど、そこまで時代背景には捉われなくてもいいのかなと。
そこが確認できたので、撮影のときにはアドリブでツッコミを入れてみたり、顔の表情を大げさにしてみたりもしました。監督もそういうものを求められる方だったので、面白おかしくできたらと思ってやっていきました。
――小四郎のキャラクターにはどんな印象がありましたか。
ひたすら優しくて相手に寄り添うことができる人ですね。だからその優しさをどこでどういうふうに出すか、表現するかというところは、各シーンでリハーサルをやりながら確認していきました。
――演じる上で意識していたことは?
コミカルなところと、真面目なところでの押し引きというか、差をつけることは意識していました。真面目なシーンはほんの少しの繊細な表情で心情を表して、コミカルなシーンでは表情をコロコロ変えるとか、そこのメリハリはつけていました。
――その加減は事前にご自身で考えているのでしょうか。それとも、現場で共演者の方と一緒にやっていくなかで出てくるものなのでしょうか。
共演者の方と一緒にやるなかで見つけていくほうが多かったです。しかも今回は前に共演させていただいた方も多くて、一緒にいるシーンが多かった(磯貝平八郎役の)浅野(忠信)さんも(さよ役の杉咲)花ちゃんも昔からよく知っていたし、浅野さんに限っては(ドラマ『刑事ゆがみ』で)バディでもあったので、自分で何か予定をして芝居を決めていくことはしなくていいなと思っていました。
お相手によってそのシーンの認識もいろいろ変わってくるでしょうから、僕はどちらかと言えば皆さんの雰囲気に合わせるというか、乗らせていただく形でできました。なのですごく楽しかったです。
桜田通とは「手に取るようにお互いのことをわかっていた」
――佐藤浩市さんが演じた一狐斎は、小四郎の実の父親でありながら、小四郎を上手く誘導して借金100億を背負わせる元藩主という役どころです。小四郎にとっては一筋縄ではいかない存在です。
(一狐斎を)疑う場面もあれば、「あなたの言うことは聞きません」「絶対に借金返済を成し遂げてみせます」という場面もあり、疑いから始まって敵対していく関係性なので、そこの流れはちゃんとできればと思っていました。
最初はただただ恐縮していた小四郎が、いろんな人と出会っていろんな経験をしていく中で、ちゃんと正面から(一狐斎と)向き合える度胸がついたことが表現できたらいいなと。
最終的な二人の関係性については、監督の指示もあって大げさに表現する部分もありましたけど、それをアクセントにしつつ受け入れている感じが出ればいいなと思っていました。
――佐藤浩市さんの持つ存在感が、二人の最終的な展開にも説得力を持たせたように感じました。
浩市さんは本当に存在感が強い方ですよね。(一狐斎は)いきなり「父親です」と言って現れた人で、それまでの関係性がない人だったから敵対することができたのかなとは思うんですけど、最終的な流れまでは浩市さんもすごく悩まれていました。
最後に小四郎が育ての親である小日向(文世)さんが演じている作兵衛と、本当の父親である一狐斎に対しての想いを言葉にする場面があるんですけど、浩市さんはそこまでに何をしたらそういうふうに小四郎に言ってもらえるかを考えられていました。僕もその最終的な想いにいつ小四郎は変換できたんだろう?とは感じました。
でも実際に現場でやってみると、そこまで浩市さんとお芝居をしてきた僕自身の想いも含まれていたのかも知れないですが、自分の中ではすごく腑に落ちてその言葉を言えたんです。それは良かったなと思います。
きっと浩市さんの存在感であったり、お芝居での立振る舞いであったり、一緒に作品を作っていくなかで生まれた感情も大きかったのかなと思いました。そこは台本を読んだ時点で感じたことと、現場で芝居をして感じたことが、いい意味で違って良かったなと思いました。
――プライベートでも交流がある、小四郎の兄・喜三郎役の桜田通さんとの共演の感想も聞かせてください。
ついに時代が桜田に追いついてきましたね(笑)。彼とは以前の所属事務所のときから仲良くさせてもらっていて、彼のことはよくわかっているし、彼も僕のことをよくわかっているから共演は照れくさい部分もありました。
でも今回は小四郎にとってこれまで会ったことのない兄弟だけど、ちゃんと兄弟にも見えなくちゃいけないという関係性だったので、そこは通で良かったなと。お芝居をしていても息がぴったり合っていましたし、手に取るようにお互いのことをわかっていたので。そして、もう1回言いますけど、時代が桜田に追いついたなって思いました(笑)。
――(笑)。共演が決まったときはどんなやり取りをしましたか。
僕が「お前か」って言ったら、「お前が主演か」って返ってきました(笑)。「おいおい、どんな運命だよ」「何だかんだ運命なんだな、ここは」って言いつつ、「よろしく~」みたいな感じでした。
――二人で役作りについて話すなんてことはないですよね?
そうですね、そこはしなかったです。桜田は桜田でぶちかませる人なので、そこは彼がどんなふうに作ってくるのかを逆にすごく楽しみにしていました。だから僕は何も考えずに桜田がその場でやったことを受け止めて、そのまま返そうと。お互いにサプライズ感があって、やっていて楽しかったです。
「踏ん張っていて良かったな」と思うことは必ずくる
――完成作を観て、特に笑ったシーンは?
小四郎とさよが悪者たちに追いかけられて、結局、橋の上で追い詰められるというシーンがあるんですけど、そのとき、悪者がナイフをなめるんです。普通、ナイフをなめるなんてしないじゃなですか。だから僕の中でどうしてもスルーできなかったんです。
そこにアドリブで「ナイフなめてる!初めて見た!」ってツッコミを入れました。それが本編に活かされていたのはうれしかったです。現場で言ったときも面白かったし、観たときも面白かったので、スルーしないで言えて良かったです。
ナイフをなめるというのは監督の演出でもあったんですけど、僕らは「ベタ過ぎないか?」って思っていて、そこに対しての僕らの芝居を通してのツッコミを、監督が受け取って活かしてくれました。シーンとしてのテンポも良かったし、僕は好きです(笑)。
そうやって全体を通して、僕が監督にツッコミを入れつつ楽しく進んでいけたので、マイナスな感情を持つことなくできました。そこがまた映画として苦労を楽しく乗り越えていってるように見えるのかなと。絶望をちゃんと面白おかしく描けていると思いました。
――前田哲監督は本作を通して若者にエールを送りたいとコメントされていますが、神木さんが本作を通して若者に伝えたいことはありますか。
この作品に関して、僕はこういうふうに感じてほしいとか、こういうメッセージがありますとか、そういうものは特にないとは思っていて。ただ監督のおっしゃるように、若者に対しては「まあ、何とかなる」ということを伝えられたらいいなと思います。困ったことや大変なことはありますけど、何とかなるから安心してほしいと。
「止まない雨はない」、雨が降ったあとには必ず晴れるという言葉もありますけど、今は米津玄師さんじゃないですけど(「KICK BACK」<「止まない雨はない」より先に その傘をくれよ>)、雨の降っているこの瞬間に傘をさしてほしいという、それもそうなんだよなって思うんです。
頑張ったからと言って報われないことも多いですし、叶えられない夢もあると思うんです。ただ、だからと言って、僕はその努力は無駄にはならないと思うんです。本人は「無駄だった」と思うかもしれませんけど、その努力の中で得た体験や経験は、その人にしか感じられない貴重なものだと思います。
息苦しいと感じることがあったり、いろいろ生きづらい世の中だとは思うし、若者は特にそう感じるんだとは思います。でも、今を精一杯頑張って、何とか踏ん張ることができたら、何かその先に「踏ん張っていて良かったな」と思うことは必ずくると思います。
描いていた夢とは違っても、「踏ん張っていて良かったな」という景色は見れると思うので、そこまでちょっと耐えてみようなかと思ってくれたらいいなとはすごく思います。耐えて良かったと思える将来は必ず来るんじゃないかと。
こんなことを人には言ってはいますけど、一番はそれをちゃんと自分でも感じないといけないということで。人に言いつつ、自分に言い聞かせているような感じです(苦笑)。
10代、20代の新しい子たちのフォローができるような器があればいいな
――小四郎のことを「相手に寄り添うことができる人」とおっしゃいましたが、神木さんにも同じような印象があります。考え方の違う人と上手くコミュニケーションを取るための自分なりの方法はありますか。
僕は「人は人、自分は自分」と思っているので、「これは普通でしょう」「これは常識でしょう」ってことがあまり好きではなくて。それは「あなたにとっての普通でしょう」って思ってしまうんです。自分の常識を一般的なこととして相手に押し付けたくはないです。
明らかに間違っていることとかは別ですけど、例えばお金の使い方とかであれば、その人にはその人らしいやり方があるんだろうと思います。人の話を聞いて、「確かに自分は無駄遣いをしていたかも」と思って気を付けることもあるけど、それは自分がそう思うからで。僕は相手を否定することはないので、波風はあまり立たないです。
――意見がぶつかったときは?
そのときは、相手の理由を聞いて「確かに」と思えたら相手の意見になりますし、自分の意見を言って相手が納得をしてくれたら自分の意見になりますし、どちらにも譲れない部分があるのなら、間を取ってできるだけWIN-WINになれたら平和だなって思います。
妥協点を作ればいいので、僕の中でけんかをすることはかなりいろんなことをすっ飛ばしてるんじゃないかと思います。カッとなると判断力が欠けるとも思うし、ぶつかったことが問題であれば、それをお互いに平和に「それでいいじゃん」って言える形で解決できるところを僕は探したいタイプです。
――本作は神木さんにとって30代最初の公開作となります。20代の神木さんはいろんなことを試してみている印象がありましたが、30代はその経験を踏まえて上手く使えるようになる年代かとも思います。そういう意味で30代に期待することはありますか。
やってみたいことは今のところあまり思い付いてはいないんですけど、「面白そうだな」とか「こういうのはみんなやったことないんじゃないかな」ということは探していきたいとは思います。
ただ30代になると、そこまで大きく変わることとか、大きな挑戦や賭けみたいなことはないんだろうなとも思います。20代だからこそできたと思うこともありますし。だからおっしゃられたようにここまでで経験したことを、どうやって応用して活かしていくかってことが主にはなってくるんじゃないかとは思います。
それこそ大好きな仲間とか、友達の役者さんとかと一緒に笑いながら、楽しみながら作品を作るのもいいなとか。自分たちが楽しむだけになっちゃうかもしれないですけど(笑)。あとは10代、20代の新しい子たちのフォローができるような器があればいいなと思います。
――20代にうちに試しておいて良かったと思うことは?
いろいろありますね。『るろ剣(るろうに剣心)』でアクションをやれたこととか、『神さまの言うとおり』みたいな奇抜な役とか、はたまた『3月のライオン』のようにおとなしい役とか、『刑事ゆがみ』もそうだし、それまで全くやったことないタイプの役に挑戦できたのは良かったです。
その役がハマるかハマらないかはやってみないとわかないので、その心持ちで突っ込んでいけたのは良かったと思います。例えば、これからは入社1年目みたいな役はできないと思うんですけど、そういう人の先輩役をやったときに、今までやってきた経験が活かされたらいいなと思います。
――出演する作品に対してメッセージ性を求めることはありますか。
そこに関してはこれまでもあまり気にしていなかったんですけど、これからも今まで通り気にしないでいくのかなとは思います。僕が役の感情を表現することができれば、それが観てくださった方には伝わると思いますし、その受け取り方はそれぞれでいいと思うんです。
僕らが「こう思ってほしい」と考えたとしても、こういうものは一人ひとり価値観も違うので。僕としてはどんな形でもいいので楽しんでもらえたらそれでいいです。
――近年には『みやぎから、』『かみきこうち』などの地域の魅力を紹介するような書籍の出版や、謎解きイベントのプロデュースなど、俳優とはまた違ったパーソナルを活かしたお仕事もされています。こういう動きも続けていきますか。
僕で何かご協力できることがあればやっていきたいとは思っています。それも挑戦の一つなので。宮城も高知も、地元じゃないからこそ、その土地の良さに気づけた部分があると思うんです。
そういう外からの目線を持って取材をしたり、表現したりして伝えられることがあるのはすごくいいなと思ったので、タイミングを見つつですけど、今後も何かあればやってみたいなとは思っています。
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ファンの間では仲が良いことが知られている神木さんと桜田通さん。二人のやり取りは兄弟役ということもあり息もピッタリ。絶妙な間合いを見せてくれています。
そんな桜田さんはもちろんのこと、これだけの個性豊かで豪華な共演者に対しても、自身のキャラクターをブレさせずに、相手にも合わせられるのはさすがの一言。神木さんにしか演じられないと感じさせる小四郎の奮闘ぶりをぜひ劇場でお楽しみください。
ヘアメイク/MIZUHO[VITAMINS] スタイリング/カワサキ タカフミ
作品紹介
映画『大名倒産』
2023年6月23日(金)より全国公開
(Medery./ 瀧本 幸恵)