<社説>米国務長官訪中 分断から融和の第一歩に

 中国を訪れたブリンケン米国務長官が習近平国家主席と会談し、両国間の対話を継続していくことを確認した。会談を足掛かりに、悪化の一途をたどってきた両国関係の改善を着実に進めてほしい。 訪中した米国務長官と習氏が会談したのは、2018年6月以来約5年ぶり。高官同士の対話継続で一致し、米中首脳会談の年内開催も視野に調整を進めることでもまとまった。両国のみならず、分断が際立つ国際社会の融和に向けた第一歩としたい。

 ブリンケン氏は習氏との会談に先立ち、秦剛国務委員兼外相と約5時間半にわたって会談した。外交担当トップの王毅共産党政治局員とも約3時間会談した。

 食事を含め、10時間を超える話し合いがあった。秦氏は米中関係を「正常な軌道に戻すべきだ」と呼びかけ、「予測可能で建設的な中米関係構築に努力する」と表明した。習氏も「世界は安定した中米関係を必要としている」「二大国は平和的共存の道を探し出せる」と述べ、緊張緩和に意欲を示した。「中国は米国に取って代わろうと挑戦することはない」とも強調したという。

 中国側にも対立を深めることは避けたいとの思いがあるのだろう。習氏は「(国際社会は両国の)対立を見たくない」とも語った。

 大国間の関係が改善されれば、ロシアによるウクライナ侵攻の終結への期待も高まる。フランスのマクロン大統領は4月の習氏との会談で、ウクライナ和平の実現に向けた中国の役割に期待を表明した。和平に向けた協議の実施を呼びかけるなど、習氏も応じた。マクロン氏の期待には中ロの密接な関係が念頭にある。

 とはいえ、関係の安定化に向けては深い溝が横たわる。秦氏らとの会談では台湾問題について激しい応酬があったという。米国の対中輸出規制にも強い不満を示す。だからこそ求められる対話の継続である。米中外相会談で合意した高官レベルの対話の継続によって首脳会談の実現につなげてもらいたい。

 今月3日に台湾海峡で米中の軍艦が異常接近する事態があった。偶発的な軍事衝突を避けるための仕組みの再構築も急ぐ必要がある。

 岸田文雄首相は昨年11月に習氏と会談しており、今年中の再会談を模索する。一方で、日本政府は中国を念頭に南西諸島への自衛隊配備を強化する。

 中国の軍拡が国民の目に脅威と映っていることは事実だが、米軍と自衛隊の一体化や増強で対抗することが国民の不安を払拭するとは思えない。ブリンケン氏と会談した王氏は「中国脅威論」がたきつけられることへの不快感も示した。

 米中の間で日本の果たすべき役割があるはずだ。外交努力による緊張緩和こそ、国民の不安を拭い去り、中国との信頼関係にもつながる。

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