「LGBT法案」“可決”当事者も懸念、反対派の主張続く…“差別のない社会”実現への第一歩となる?

LGBT理解増進法可決の翌日に「LGBT法案反対」デモが行われた(撮影:榎園哲哉)

LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの総称)と呼ばれる性的少数者(マイノリティー)の性的指向、性同一性を理解し、社会の多様性を育むことを目指すLGBT理解増進法が6月16日、同13日の衆院本会議での可決に続き参院本会議でも可決され、成立した。しかし、同法については反対意見も少なくなく、同17日には東京・銀座で市民らによる反対のデモ行進が行われた。

初夏を思わせる汗ばむ気候の下、「LGBT法案反対」デモ行進は行われていた。デモは、元自衛官で「英霊の名誉を守り顕彰する会」などの代表も務める社会運動家の佐藤和夫さんが主催。法案が予想以上に速いスピードで可決されたこともあって、可決後の実施となった。

SNSなどでの呼び掛けに賛同した市民約100人が参加。女性の姿も多く見られた。参加者らは横断幕を持った4人の男性を先頭に日比谷公園をスタート。休日の多くのカップルや家族連れらでにぎわう銀座通りを抜け、楓川弾正橋公園に至るおよそ3キロを、「女性の人権を守ろう」などと書かれたプラカードを掲げ、シュプレヒコールを挙げながら歩き続けた。

「LGBT法案反対」デモの様子(撮影:榎園哲哉)

差別のない社会を目指す」法律の中身

可決・成立した「LGBT理解増進法」の正式名称は、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」。性的マイノリティーへの理解、差別のない社会を目指す。第3条では基本理念として、「その性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものである」とし、「不当な差別はあってはならない」、「相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資すること」を掲げている。

先進7カ国(G7)広島サミット(主要国首脳会議、5月19日~21日)でLGBTの権利を守ることが議題の一つに取り上げられることから、法律の可決が急がれた。自民党と公明党の与党、日本維新の会と国民民主党、立憲民主党と共産党の野党から計3案が出され、与党が維新・国民の提案を受け入れ、「性同一性」を「ジェンダーアイデンティティ」に改めることなどを盛り込んだ修正案を提出していた。

法案反対派の主張

16日の参議院本会議の可決では、自民党の派閥を超えた議員グループ「日本の尊厳と国益を護る会」代表の青山繫晴参院議員が「日本の子供と女性のためにこそ行動します」(自身のHPから)と、採決を前に議場を退席。同グループに所属する和田政宗参院議員も退席し、法案に反対の意思を示した。

銀座でのデモを主催した前出の佐藤代表は、反対の理由について「日本でLGBTの方たちは差別されているのか。差別していないのに、差別していると伝えられていないか。マイノリティーを守るために、大多数の女性、マジョリティーの女性が身の危険を感じることにつながる」と語る。

さらに「(日本では)お父さん、お母さんがいて家族がある。同性婚が認められれば、子どもはもらい子になり、家族が壊れていく」と日本古来の家長制度の破壊、伝統文化の破壊の危惧も語る。また、里子や養子が幼児性愛の被害につながる可能性にも触れた。

皇統への影響を危惧する有識者もいる。俳優でジャーナリストの葛城奈海さんは、産経新聞の自身のコラム(6月15日)に「男性を自認する女性を男性と扱うことで、皇位継承の原理自体が崩れ、建国以来、一度の例外もなく男系(父方をたどれば初代神武天皇につながる血統)で受け継がれてきた皇統の断絶にもつながりかねない」と記した。

誤解も少なくない報道やSNS

しかし、報道などには誤解も少なくない。SNS上などでよく見るのは、たとえば、男性器を付けた筋骨隆々の自称「女性」が女性浴場に入って来るのでは、トイレなどに忍び込み性犯罪につながるのでは、などの懸念。

これについて、当事者団体と弁護士が東京都内で3月に開いた記者会見で、出席した立石結夏弁護士は、「心が女だ、と主張したからといって(体が男性、心が女性の)トランスジェンダー女性になれるわけではない」と指摘。

「犯罪目的で女性用スペースに入ってきたひとが『自分はトランスジェンダー女性だ』という主張を盾に言い逃れしようとしても、本当にそうであるかは、成育歴や通院歴、家族への聞き取りなどによってすぐにわかるため、極めて難しいことです」とも語った。

法案成立「ゴールではなく、スタートに」

LGBT当事者たちは、法案成立についてどう思っているのか。筆者はゲイバーに取材を申し込んだが受けてもらえなかった。銀座デモ行進に参加した男性によると、ゲイの知人は「騒がず、そっとしてほしい」と語っているという。

NPO法人「東京レインボープライド」は、「(条文に)『全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする』との一文が入ったことは、LGBTQに対する理解の増進ではなく理解の抑制に繋がりかねず、重大な懸念を感じています」との声明(一部)を発表。性的マイノリティーが国民に不安を与えかねないように捉えられていることを憂いている。

家族法が専門の早稲田大学法学学術院の棚村政行教授は、「LGBT理解増進法の意義、基本理念は、すべての国民が性的指向および性自認にかかわらず、個人として尊重され、差別がされず、“性の多様性”を受け入れる自由な社会の実現を目指すものです」と語る。

「同法の成立は、決してゴールではなく、これをスタートとして、国や社会が、性的マイノリティーの人々の存在を理解し、差別を解消して、かけがえのない個人として尊重するとともに、社会の構成員として平等に受け入れていくべきことを強く求めています」(棚村教授)

電通ダイバーシティ・ラボが2020年に調査した結果によると、日本のLGBTの割合は8.9%(およそ11人に1人)。そうした性的マイノリティーの人たちが不自由なく暮らしてきたとは言えまい。今回成立した法律の精神が広く社会に浸透し、生かされていくことを願う。

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