社説:米国務長官訪中 関係修復へ対話続けよ

 米国のブリンケン国務長官が中国を訪れ、習近平国家主席らと会談した。

 最大の成果が「対話の継続」だったのはもの足りないとはいえ、対立する二大大国の要人が直接対話した意義は大きい。関係修復は容易でないが、さらに対話を続け、歩み寄る努力を重ねるほかない。

 バイデン政権発足後、米国閣僚の訪中は初めてで、国務長官は約5年ぶりだ。2月の米軍による中国偵察気球の撃墜問題で延期されていた。

 18日に秦剛国務委員兼外相と5時間半にわたり話し合った。19日は中国外交担当トップの王毅・共産党政治局員と面談、注目されていた習主席との会談も実現した。

 習氏が「世界は安定した中米関係を必要としている」と緊張緩和に意欲を示し、ブリンケン氏も関係改善の意向を表明した。

 一連の会談で、外相ら高官の対話継続の方向で一致し、バイデン大統領と習氏の首脳会談も年内開催を視野に調整することにした。

 衝突への危機感を背景に、「どん底」(秦氏)の関係にある両国が対話再開へ重い腰を上げたと言える。これ以上の緊張激化は互いの利益にならないと判断し、融和を演出したともみられる。

 習氏が米国との対話に応じた背景には、国内の経済不安がある。新型コロナウイルス禍後の景気回復は鈍く、対米関係の修復が欠かせないからだ。

 ただ、安全保障や人権問題など相互不信は根深い。

 ブリンケン氏は台湾海峡や東・南シナ海での挑発行為に懸念を示し、軍同士のハイレベル対話再開を繰り返し求めた。対して中国側は台湾問題で妥協や譲歩の余地はないとけん制し、米国が「中国脅威論」をあおっていると批判して要請に応じなかったという。

 主張は平行線のままで、着地点を見いだすのは容易ではない。

 しかし、米中二大国の対立が国際社会を不安定にさせている。日本にとっても対立の常態化は望ましくはない。双方とも大国としての責任に向き合ってもらいたい。

 複雑な関係を直ちに修復できるわけではないとしても、長期化する米中間の競争関係をどう管理していくのか。互いに協力し合うべきところと、「譲れない一線」を見極める必要がある。

 とりわけ、台湾情勢などで偶発的な軍事衝突の懸念を払拭(ふっしょく)できない。軍同士で未然に衝突を防ぐメカニズムの再構築は急務であろう。

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