社長の妻も「まさか自分がやることになるとは」 姫路の会社で、全社員が溶接資格を取得した理由

全員が溶接の資格を取得した江渕工業所の社員たち=姫路市大津区天神町2

 二つ以上の金属を溶かして接合する溶接の資格を、社員9人全員が取得した会社が兵庫県姫路市内にある。本職の溶接工だけでなく、女性スタッフや技能実習生も今年5月にそろって有資格者となった。全員が現場で働く訳ではないが、同社は「設計を担うスタッフも溶接を理解することで、より良い製品づくりにつながるはず」と期待する。(三島大一郎)

 姫路市大津区天神町2の金属加工業「江渕工業所」(資本金1千万円)。1967(昭和42)年創業で、金属の切断や溶接、曲げ加工を行っている。社員は9人で、うち4人が溶接職人として働く。

 全社員の溶接資格の取得を目指すきっかけとなったのは、溶接職人の人手不足だった。約10年前までは求人を出せば職人が集まったが、近年は応募が減少。少子高齢化に加え、「きつい」などといった製造業に対するイメージも重なり、特に若者の確保が難しくなっているという。

 2年前の夏ごろ、同社の江渕修社長(56)が「みんなで(資格取得に)挑戦しよう」と提案。設計などに携わる女性スタッフとベトナム出身の技能実習生、江渕社長の妻で専務の美香さん(54)ら、溶接工以外の5人も取得を目指すことになった。

 「長年、溶接現場を見てきたが、まさか自分がやることになるとは」と美香さん。社内の職人が講師役となって勉強会を開き、数カ月間実技の練習を重ねた。

 挑戦したのは、手作業で行う溶接「ティグ溶接」の基本級。今年2月、5人と資格の更新を迎えた職人が一緒に、岡山県倉敷市で開かれた日本溶接協会の試験を受けた。同5月、全員に合格通知が届いたという。

 社内の模擬試験で一度は不合格になったという美香さんは「(合格は)めちゃくちゃうれしかった。こつこつ頑張れば、私でも合格できるということを証明できた」と笑顔。江渕社長は「全社員の資格取得は、より質の高い製品を作れるという強いアピール材料になる」と手応えを語った。

 溶接現場は機械化が進み、初心者や女性でも作業がしやすくなっているといい、江渕社長は「男女や国籍にかかわらず、誰もが活躍できる職場だ。ものづくりに興味のある若者らに、魅力を伝えていきたい」と話した。

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