【シンガポール】採用意欲継続、労働市場減速も[経済] コロナ流行時に削減の人員補充で

雇用市場は減速傾向だが、人員補充が完了していない企業も多い=シンガポール中心部(NNA撮影)

シンガポールで今年に入ってから経済情勢の悪化などで労働市場が減速する中、企業による人材の採用意欲が衰えていない。新型コロナウイルスの流行時に削減した人員の補充が終わっていないことなどが背景にある。専門家は、採用活動が落ち着くまではもう少し時間がかかるとみている。

シンガポールでは昨年4月に新型コロナ関連の行動制限が大幅に緩和されて以降、経済の本格的な再開に向けて労働力需要が急激に増加。特に観光客の増加で小売りや外食、宿泊などサービス業を中心に多くの企業が人材不足に悩まされた。

ただ昨年末から、物価高騰と、それに伴う金融引き締め、さらに地政学的な緊張の拡大などを受け、景気減速への不安感がより現実的なものとして受け止められ、雇用市場に陰りが見え始めた。

人材開発省の雇用統計によると、2023年1~3月期の雇用増加数(前四半期比)は3万8,600人となり、2四半期連続で伸びが減速。有効求人倍率も22年末時点の2.33から23年3月末時点で2.28に低下した。

同時に労働者の意識も変化している。昨年までは、より良い待遇を求めて転職を希望する就労者も多く見られたが、今年に入り直近での転職を考える就労者が大幅に少なくなっている。現地の市場調査会社ミリューインサイトが今年3~4月に実施した調査によると、就労者の約7割が「今後6カ月は転職しない」と回答した。

統計的には、シンガポールの労働市場の逼迫(ひっぱく)が緩和する方向に向かっているが、企業による人材の採用意欲は依然として高いという調査結果もある。コロナ禍後の人材補充が十分でない企業が多く存在しているためだ。

米総合人材サービス大手マンパワーグループが発表した23年7~9月期の雇用見通しによると、シンガポールで雇用数を「増やす」と回答した企業の割合は48%、「減らす」は14%となった。両者の差し引きである純雇用予測指数はプラス34で、前四半期から7ポイント上昇した。

マンパワーグループ・シンガポールのリンダ・テオ・カントリーマネジャーは、「特定分野や補充に必要な人員を探している企業はまだ多い」と説明した。

人材紹介会社リーラコーエンのシンガポール法人のリージョナルゼネラルマネジャー、副島康介氏はNNAに対し、「経済成長は鈍化しているが、コロナ禍後の人員補充が追い付いていない企業がある。欠員を埋める採用活動は年末まで続くのではないか」と語った。

■環境関連の人材不足

専門職人材が明らかに不足している分野もある。代表例が環境関連だ。企業による環境への取り組み強化を受け、サステナブルマネジャーなどのポジションへの需要が高まりつつあるが、この分野での専門人材は極めて少なく、需要に全く追いついていないのが現状だ。

マンパワーグループのテオ氏は、「50年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする『ネットゼロ』達成という政府目標に向け、環境関連の職種における採用は今後も高水準で推移するだろう」と述べた。

リーラコーエンの副島氏は「環境関連のコンサルティング会社やテック企業がシンガポールに進出していることもこの分野の雇用需要を増やす要因になっている」と説明した。

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