2024年度入試は受験生も大学も年内入試志向

2024年度入試は現役生の安全志向がより強まると予想されています。翌年(2025年度入試)には新課程入試が控えているためです。安全志向の年度には、学校推薦型選抜、総合型選抜などのいわゆる年内入試に受験生が向かうことが、これまでも度々見られました。2024年度入試でも同様の動きが予想されますが、一方で大学側にも年内入試で早めに入学者を確保しようとする動きが見られます。ただ、中堅以下の私立大は年内入試で十分な確保ができない可能性も考えられます。

2023年度年内入試は志願者・合格者ともに増加

定員管理の方法が「入学定員+収容定員」から「収容定員」のみの複数年管理に変わったことから、難関私立大の一般選抜の合格者数は増加しています。そのため中堅以下の私立大は一般選抜で入学者数を確保することが難しくなっており、多くの私立大で、年内入試で入学者数を確保する、年内入試志向が強まっていると考えられます。実際、ここ数年、年内入試の志願者数、合格者数は増えています。

2023年入試の年内入試結果を集計したデータが、河合塾の大学入試情報サイトKei-Netと旺文社のパスナビに掲載されていますが、旺文社「2023年度 学校推薦型・総合型選抜結果レポート」を見ると、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)を課さない国公立大の入試結果は、志願者数2%増、合格者数2%増で倍率は変わりませんが、志願者数、合格者数ともに増加しています。国立大と公立大で見ると、国立大は志願者数5%増、合格者数4%増です。公立大は志願者数1%減、合格者数1%増となっていますので、国立大で合格者数がより増加しています。共通テストを課さない方式の集計のため、年内で合格・入学が決まる受験生数が増えていることになります。これは一般選抜の受験者実人数が減ることを意味しています。

河合塾の集計は、共通テストを課す学校推薦型選抜、総合型選抜も含まれていると見られ、こちらも国立大は志願者数6%増、合格者数5%増、公立大は志願者数4%増、合格者数4%増となっています。国公立大合計で合格者数が約1,300人増えていますので、私立大にとっては厳しい数字です。

■旺文社パスナビ

https://passnavi.obunsha.co.jp/

■河合塾「学校推薦型・総合型選抜の概況」

https://www.keinet.ne.jp/exam/past/review/recommendation.html

医療・看護・栄養、家政・生活科学、教員養成が易化

私立大の入試結果は、旺文社の集計では志願者数の増加を上回る合格者数の増加となっています。志願者数4%増、合格者数6%増です。合格者数は特に京阪神地区で増加率が高くなっています。また、学部系統別に見ると、法、経済・経営・商、文・人文・教養、薬、医療・看護・栄養、家政・生活科学、教員養成で合格者数の前年比の伸びが志願者数の伸びを上回る状況です。特に医療・看護・栄養、家政・生活科学、教員養成は、いずれも志願者数が3~5%減少していますが、合格者数は数%増加しており、かなり易化していたことが分かります。なお、旺文社のデータは、昨年の12月集計の数字のため、私立大の志願者数は約29万人分の集計結果となっています。

河合塾の集計は今年の5月末の集計のため、私立大志願者数は約50万人ですが、志願者数2%増、合格者数4%増ですので傾向は旺文社データと同じです。河合塾データには地区別集計があり、これを見ると旺文社データと同様に近畿地区の合格者数の伸びが目立ちます。前年比6%増で合格者数は10万人を超えています。この10万人というのは、文部科学省の学校基本調査2022年度確定値で見ると、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県の2府4県の大学進学者数の実人数とほぼ同数です。近畿地区の年内入試は特に公募推薦で併願可能な方式が多いため、合格者数も多くなりますが、それにしても大きな数字です。

2024年度年内入試は拡大傾向

2024年度入試ではさらに年内入試が拡大する傾向にあります。河合塾のKei-Netで入試変更に関する情報を見ると、私立大のみならず、国公立大でも新規に学校推薦型選抜や総合型選抜の新方式等を導入する動きが多く見られます。共通テストを課す方式、課さない方式ともに増えています。さらに、募集人員の増加を予定している国公立大が散見されます。例えば、募集人員が昨年までは1校4名までだった東北地区の公立大が1校8名に増やしていたり、昨年まで1校3名までだった中四国地区の公立大が人数制限無しにしたり、九州地区の公立大でも1校各学科4名までだった募集人員を制限無しにしています。1校から1学科に4名でも募集人員としては多いと思いますが、さらに制限無しでは、同じ地域で同系統の学部を持つ私立大はかなり厳しい競争環境に置かれます。

国立大学では、東京工業大が新たに設ける女子枠がどれぐらいの志願者数・合格者数になるのか、気になるところです。この理工系学部における女子枠は、来年一気に拡大します。北見工業大、金沢大、山梨大、名古屋工業大などのほか、私立大でも東京理科大、神奈川大が新たに女子枠を設けます。理工系の学部を持たない、ほとんどの女子大からすれば、手の打ちようがなく厄介な動きです。

このように年内入試でも大学間の競争が厳しくなってきていますので、来年は特に指定校推薦の出願基準(学習成績の状況=評定平均値)を下げる大学が増えると考えられます。こうして出願できる対象者が増え、各大学の入試方式も増えていきますので、年内入試の規模がさらに拡大していきます。ただ、規模が拡大すると、人気の高い上位大学が総取りできる環境が生まれます。多くの中堅の大学は、年内入試で入学者の確保を考えていると思われますが、複数の上位大学で合格者数が増えると予想されますので、なかなか厳しい結果になりそうです。大学にとっては大変ですが、受験生にとっては、従来であれば想定もしていなかったような伝統校に手が届く、とても希望が持てる時代が到来しつつあります。

■河合塾Kei-Net「入試変更に関する情報」

https://www.keinet.ne.jp/exam/future/

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