Vol.70 Inspire 3フライトレビュー!超高画質撮影システムで撮影現場を変える画期的空撮ドローンの実力とは[Reviews]

6年半の時を経て劇的な進化を果たしたDJI Inspire 3。そろそろデリバリーが開始し、お手元に届いたユーザーも多いのではないでしょうか。しかし、まだ気になっているが購入に踏み切れない…という未来のユーザーもいるかと思いますので、少しではありますが、Inspire 3の機能を試してお届けしたいと思います。

最新技術フォーマットで超安定飛行性能を実現

筆者もDJI Inspire 2をユーザーとして長らく使ってきましたが、最近はMavic 3シリーズの操縦安定性や映像伝送の安定性に慣れてしまい、Inspire 2使用時にストレスを感じることがありました。

しかし、Inspire 3はGNSSの取得本数も多く(レビュー飛行時は32本)、飛行アルゴリズムやセンサー類もアップデートされ、自分のイメージに極めて近い飛行ルートを飛行させることができました。また、最大下降(チルト)速度は9m/sから10m/sに向上、垂直方向の上昇速度は6m/sから8m/sに、垂直方向の下降速度は4m/sから8m/sに向上したという飛行性能のアップデートにより、安定しつつもかなり機敏に動き、画角の変化もつけやすくなっている印象です。

そして、ホバリング時のプロペラ音もInspire 2よりも静かに感じますので、演者さんや周辺のスタッフに余計な威圧感を与えずに撮影もできそうです(さすがに加速時はそれなりにプロペラ音は出ます…)。

映像伝送もとても安定しており、Inspire 2では画面が乱れてしまうような距離感や物陰でも、安定性を保っていました。これは、撮影時にとても安心して撮影に専念できる要素のひとつだと思います。

少し懸念があった巨大なプロポですが、ストラップを付けるととても意外と持ちやすく、操縦性の安定性&スムーズさも相まって不便に思うことはありませんでした。何より、マスター/スレーブが簡単に設定できるのもとても便利に感じました。筆者はあまり2オペレーションをしないのですが、稀にInspire 2で設定する際に手間取ることがありました。しかし、Inspire 3ではO3 Proによって送信機一つ一つが機体とリンクする仕組みのため、設定もとてもシンプルです(Inspire 2ではマスターの送信機を機体に接続、その後、マスター送信機とスレーブ送信機を無線接続する形式)。

新型35mmフルサイズセンサー搭載小型カメラ「X9-8K Air」

フルサイズセンサー搭載の小型カメラ「X9-8K Air」の実力はどうでしょうか?夕景を少しですが撮影することができたのでサンプルとして掲載します。

明るいところから暗いところまでの色の幅、黒く潰れない暗部、水面の細かい波が一つ一つのレベルでわかるディテール…どれをとっても最高です。サンプル映像はD-Log撮影したものにLUTを当てたのみの簡易的なものなので、元となった動画ファイルをダウンロードできるようにしておきますので、ぜひみなさんでもいじってみてください。

本格的にカラーグレーディングすればさらなるポテンシャルを発揮することは間違いありません。

ダウンロード用動画元データ

また、標準搭載の「DJI DL 18 mm F2.8 ASPHレンズ」は実は新発売の超広角レンズ。写真を撮るとよりその広角が際立ち、ダイナミックな構図を作ることができます。

静止画ももちろん8Kで撮影可能(8K解像度の写真はコチラからダウンロードできます)

本当にcmレベルの誤差範囲で飛べるのか?RTKによる再現飛行を検証

今回、筆者が試したかった機能のひとつに「Waypoint Pro」があります。RTK(アールティーケー/リアル・タイム・キネマティック)測位という測位衛星情報補正の仕組みを利用し、cmレベルの誤差まで正確に測位(通常のGNSSとセンサー類のみの測位では数m~以上の誤差が出る)、再現飛行を実現する技術です。

もし、本当に数cmレベルの誤差範囲の中で再現飛行ができるのであれば、同じ画角を違う時間帯に撮影して合成したり、外的要因でNGが出ても再度全く同じ画角で撮影ができたり…と撮影現場でのドローン空撮の新しい手法として利用できそうです。

まずは、大きな樹木を被写体にして近接撮影ルートをWaypoint設定してみました。WayPointの設定は、送信機のMap上にPointを設定(高度や速度、カメラや機体の向きも設定可能)する方法と、実際に飛行ルートを飛ばしながら、3次元的にWayPointを打っていく(送信機裏側のボタン)方法の2つがあります。今回は後者の方法でWaypointを設定、再現飛行を試みました。

天候が怪しくなったため、あまり試せなかったのですが(そして雑な映像で申し訳ありません…)、被写体が近いにも関わらず2回の飛行ともにほぼ同じ画角で撮影ができています。自分が操縦しない中でぐるぐる飛行する機体に少しヒヤヒヤしましたが、一度飛行させた飛行ルートを忠実に再現していたので実際には危険な場面はありませんでした。

次に、どれだけ正確に飛行ルートを再現しているのか検証してみたかったので、低空で松の木の間を抜けるような飛行ルートを設定し、飛行の再現性を検証してみました。

見ての通り、地面効果(自分のプロペラの吹き下ろしが強く不安定になる現象)の高い低空の細かい飛行ルート設定にも関わらず、ほぼ同じルート・撮影を再現できています。飛行スピードは後から設定することもできるので、今回は0.2m/sほどの低速で設定しましたが、3m/sなどの飛行スピードに変更することも可能です(検証では怖くてできませんでしたが…)。

また、「3Dドリー」機能を使えば、ワイヤーカムのように決められた(設置した)ルートを送信機のエレベーター操作で行ったり来たりしながらカメラ操作を行うことも可能です。これらの機能があれば、操縦者の技能に依存しすぎずに意図通りの撮影をすることが可能ですね。

ただ、注意点としては、RTK測位の高い感度の補正情報の取得が精度向上の条件となります。今回はD-RTK2をお借りしてテストしましたが、設定した飛行ルート上に機体側のRTK電波受信感度が低くなる場所があり、その場所では若干機体が不安定(再現性にブレが出る)になることがありました。撮影前のテスト飛行時にRTKの電波受信感度のチェックも忘れずに行ってください。

ドローン空撮に新たな手法を導入する画期的な機体

DJI Inspire 3は単なる空撮機ではなく、空撮現場の手法を変える可能性がある超高画質撮影システムです。RCヘリコプターやマルチコプターにカメラを搭載して操縦する空撮のフェイズから、機体の制動や位置情報を管理してカメラオペレーションをする撮影システムへ進化したと言ってよいでしょう。

新しい表現力を手に入れるために、Inspire 3の導入を前提に空撮現場の手法・体制を再検討してみてはいかがでしょうか。

© 株式会社プロニュース