クドカン初Netflix『離婚しようよ』不倫夫・松坂桃李×サレ妻・仲里依紗の “毒”を秘めた意欲作!

Netflixシリーズ『離婚しようよ』2023年6月22日(木)より独占配信スタート

TBS×Netflix + 宮藤官九郎×大石静

『サンクチュアリ -聖域-』や『THE DAYS』など、話題作が続く2023年のNetflix日本オリジナルドラマ。2023年7月13日(木)には『御手洗家、炎上する』、12月には『幽☆遊☆白書』の配信が控えており、映画やアニメ、バラエティを含め強力なラインナップを揃えている。その1作である『離婚しようよ』が、6月22日(木)から配信開始となる。

本作はTBSとNetflixのコラボレーション企画の第3弾。『日本沈没―希望のひと―』(2021年)、『未来日記』(2021年)に続く作品として、2021年時点で製作が発表されていた。また、宮藤官九郎と2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』が控える大石静が共同で脚本を手掛け(交互に脚本を書き継いでいく形式だという)、『木更津キャッツアイ』ほか宮藤との数々のタッグで知られる金子文紀らが演出を担当。仕掛け人となる磯山晶プロデューサーは『俺の家の話』(2021年)に至るまで宮藤・金子コンビと継続的に組んできており、鉄板の布陣といえるだろう。

政治家&人気女優が“離婚”を決意、しかし……

本作では、松坂桃李と仲里依紗が夫婦役を演じ、タイトル通り離婚をしようとする夫婦の姿が描かれる。

過去に起こした不倫騒動や度重なる失言で炎上常習犯扱いされている愛媛県出身の三世議員・東海林大志(松坂桃李)と、「お嫁さんにしたい女優No.1」に選ばれ続けている人気女優・黒澤ゆい(仲里依紗)の夫婦。

夫婦仲が冷え切ったふたりは離婚を決意するものの、「選挙に影響をきたす」「CMの契約が打ち切られる」などと周囲から猛反対を受けてしまう。困ったふたりは弁護士に相談し、「選挙が終わったら離婚する」と誓うのだが――。

気軽に観られるポップさと、その先にある毒

既に公開されている予告編などからうかがえる通り、基本的にはコメディテイストの本作。全9話にわたって、大志とゆいが“理想の離婚”に向かって突き進んでいく姿を面白おかしく展開させていく――。のだが、ただ「笑える」だけにとどまらないのが大きな特長。選挙にまつわるドロドロのパワーゲーム、夫婦というテーマが浮き彫りにする“正しさ”の押し付け、他人の色恋沙汰に執着し消費する民衆……。

これは配信作品だからということもあるのかもしれないが、なかなかに攻めた物議をかもしそうなセリフも飛び出し、個人的にはヒヤヒヤさせられる瞬間も。ギャグについてもライトからブラックまで多種多様なテイストが用意されており、観る側がどの深度(或いは立場)で向き合うかによって印象が微妙に変化していく。要は、気軽に楽しめる作品でありながら、観進めていくと“毒”に行き当たる構造になっているのだ。

「夫婦」が当人以外にもたらす安心感の正体

例えば、夫婦の在り方について。不倫夫と“サレ妻”という構造はあくまで出発点で、物語は「政界」「芸能界」を中心に夫婦という概念を解体し、再検証していく。例えば大志は、ゆいの人気にあやかって当選した部分があり、ゆいはゆいで「結婚しているからこそ来る仕事」の恩恵を受けてもいる。

それが離婚の危機で揺らいだとき、当人以外がエスカレートし、大志とゆいは蚊帳の外に置かれてしまう。『離婚しようよ』では、「夫婦」が当人以外にもたらす安心感の正体とは? といった問いかけが、どこか冷笑的に行われていくのだ。

「政治家の妻はこうあるべき」という大志の母・峰子(竹下景子)の主張は、突き詰めていくと凝り固まった“役割”の押し付け的な価値観に行きつく。かたや、ゆいの母・富江(高島礼子)は恋多き女性で、父親がそれぞれ別の弟妹が多くおり、世間受けはあまりよくない。大志の対立議員候補である想田豪(山本耕史)は愛妻家だが、イメージ戦略として利用する一面も。

気になる他者からの評価、逃れられない人間の性(さが)

夫婦の中にある「愛」よりも、夫婦という「属性」に付随する印象について切り込んでいく内容となっており、大志とゆいが政治家と芸能人という人気商売的な側面のある人物であることを差し引いても、他者からの評価におびえる(のに過ちを犯す)人間の性(さが)が象徴的に描かれていく。

また、そうした「夫婦」というテーマから派生して進んでいくのが、他者を属性や印象で判断する危うさだ。夫婦はこうあるべき、男はこう、女はこう、といった主張が世の中にいかにあふれているのかを、ダイレクトなものから巧妙に隠されたものまでちりばめていく。

選挙の裏側、芸能界、夫婦――

ゆいが出演するCMやドラマは、そうした価値観の温床だ。物語の筋とは関係ないラブシーンや良妻賢母な像の押し付けといった印象操作、だがその結果獲得したのは「お嫁さんにしたい女優No.1」の座……。大志は大志で、「世襲議員」と揶揄されたりその無能ぶりを面白おかしく描かれたりしているが、その背景にはそう生きるしかなかった御家的な宿命がある。

大志との不倫で失脚したアナウンサーの三俣(織田梨沙)は、「性の搾取」といった主張で世間の同情を引こうとするが、彼女自身も楽しんでいたフシがある。そして、ゆいと急接近する自称アーティストの加納恭二(錦戸亮)は、俗世を捨てたアウトローのようでありながら「子ども=幸せ」という幻想に囚われてもいる。

さらに、大志と想田の公開討論会の場では、有権者を置き去りにした「男女平等」論が交わされていく。「ジェンダーフリーの時代だから」という空気感(トレンドという意識)だけで、市井の人々の声を聴かずに“正義”認定し、物事を進めようとする――私たちがいま現実に直面している国内の政治にも、少なからずそういう風潮がないだろうか?

選挙の裏側、芸能界、夫婦――見やすいルックだが中身はヘビーな『離婚しようよ』。1話約60分×9話というボリュームで展開する意欲作を観終えたとき、あなたの目に現実はどう映るだろう?

文:SYO

Netflixシリーズ『離婚しようよ』2023年6月22日(木)より独占配信スタート

© ディスカバリー・ジャパン株式会社