「神戸らしい」名建築、一斉公開を 初開催へ市民始動 英国発祥の「オープンハウス」

抽選倍率が3倍近くにもなる旧乾邸の特別観覧=神戸市東灘区住吉山手5

 ここ数年、全国各地で「オープンハウス」の取り組みが盛り上がりを見せている。オープンハウスと言えば、日本では住宅の内覧会を思い浮かべるが、普段は内部を公開していない建築物を地域内で一斉に公開するイベントのことだ。約30年前に英ロンドンで始まり、世界各都市に広がった。大阪や京都では延べ数万人を集客する一大イベントになっており、神戸でも今秋の初開催を目指し市民らが動き出した。(高田康夫)

 魅力ある建築物は、個別の公開でも人気を集めている。

 5月、神戸市東灘区にある市指定有形文化財「旧乾邸」の特別観覧が開催された。観覧は午前と午後に分け、7日間で計約560人が全国各地から訪れた。申し込みは、その3倍近くにも上るという。

 旧乾邸は1935(昭和10)年ごろに建築された和洋折衷の邸宅だ。阪神大水害(38年)、神戸空襲(45年)、阪神・淡路大震災(95年)などをくぐり抜け、地元の人々が守り続けている。特別観覧では、その一人である村上明子さん(52)が、建物の歴史や守り続ける思いなどを語った。

 参加した兵庫県西宮市の会社員の男性(52)は、これまで何度も落選し続け、今回、仕事を休む覚悟で申し込んだ平日にようやく当選。解説を熱心に聞きながら、特徴的な建物の内装などを写真に収めて回った。

 大阪や京都のオープンハウスイベントにも参加しているという男性は「神戸・阪神間にも魅力的な建物は多いが、いつ見学できるのか、それぞれのホームページで調べないといけない。大阪や京都のように一斉公開してほしい」と希望する。

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 オープンハウス発祥の地のロンドンでは、1992年に民間団体が始め、今では毎年9月の風物詩になっている。アテネやアトランタ、バルセロナなど世界各都市に広まり、オープンハウスに取り組む50以上の都市によるネットワークもできている。日本で唯一入っているのは、大阪だ。

 大阪では2014年から毎秋、建築関係の企業や専門家らによる実行委員会が「生きた建築ミュージアムフェスティバル(イケフェス)」を開催。都市の魅力を高めようと、企業の社屋やホテル、大学など、完成した年代に関係なく、さまざまな建物の所有者の協力を得て、限定公開している。昨秋公開した建物数は138に上り、全国から延べ約5万人が参加した。

 京都では、昨秋から「京都モダン建築祭」が始まった。戦時中に空襲に見舞われていない京都には近代建築が多く残っているといい、そこに焦点を当てて一般公開した。3日間で延べ3万人が来場したという。

 大阪、京都の両イベントにかかわっている大阪公立大工学研究科の倉方俊輔教授(建築史)は「建物を通して、人の姿やなりわいが見えてくる。この街にはこんなにいろいろな人がいるのかと分かってくる。単なる文化財の公開ではない、オープンハウスの面白さだ」と話す。

 また、「京都、大阪、神戸と互いに行き来できる距離なのに、趣が全然違う。神戸は開発と発展の歴史が刻まれた街。新たな使い方をされている建物もある」と指摘する。

 神戸でも市民らが実行委をつくり、今秋の開催に向けて検討や調整を進める。1級建築士の松原永季・実行委員長は「神戸の建物は海港都市としての記憶を伝え、震災で被災しながらも残っている価値もある」とし、「神戸らしさを形づくってきた建物が取り壊されることなく、後世でも活用されるよう、多くの人と価値を共有できるイベントにしたい」と語る。

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