社説:沖縄「慰霊の日」 重荷負わせ続けるのか

 沖縄はきょう、太平洋戦争末期の沖縄戦の犠牲者を悼む「慰霊の日」を迎えた。

 凄惨な地上戦で死者は20万人を超え、巻き添いとなって沖縄県民の4人に1人が命を落とした。

 「島を二度と戦場にしてはいけない」。切なる誓いの日である。

 だが、戦後78年間も米軍基地が集中し続ける上、近年の中国の軍拡に対抗するとして南西諸島へ自衛隊配備が次々に進められている。

 有事となれば標的とされ、戦争に巻き込まれかねないとの住民の懸念に対し、政府が対策と説明を尽くしているとはいえない。

 国の安全保障を盾に頭ごなしに既成事実を重ね、沖縄に重荷を押し付けるままでいいのか。全ての国民が直視せねばならない。

 基地問題の焦点である米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画は、国と県の対立が続く。埋め立て予定海域の南側で国が工事を強行する一方、軟弱地盤が見つかった区域は地盤改良の設計変更を県が認めずに訴訟となり、ストップしている。

 地盤の安定化は技術的に難しく、工期は当初の5年から9年を超え、総工費は2.7倍の約9300億円に膨らむと想定される。

 普天間返還の日米合意から27年が過ぎ、この先の移設の実現性も不透明では政府のいう「早期の危険除去」にならない、との県の主張はもっともである。

 それでも岸田文雄政権が「辺野古が唯一の解決策」の一点張りで、事態打開に動く姿勢が見えないのは不誠実ではないか。「沖縄の基地負担軽減」の原点に立ち戻って県との協議に向き合い、代替案を検討すべきだろう。

 南西諸島への部隊配置も、なし崩しに進めては地元との溝を深める。尖閣諸島や台湾の周辺での中国の威圧的行動に対し、陸上自衛隊は2016年以降、与那国島や宮古島などに続き、今年3月に石垣島に拠点を展開した。

 配備を進める12式ミサイルは、政府が保有を決めた反撃能力(敵基地攻撃能力)に使うため射程を延ばす計画だ。逆に相手から真っ先に攻撃目標となる恐れが高まるだけに、地元の危機感は強い。

 4月には宮古島周辺で陸自幹部らが搭乗したヘリコプターが墜落した。増大する事故・事件リスクへの対策や非常時の住民避難なども大きな課題だろう。

 軍事的対応に偏り、有事を起こさない外交努力を伴わねば、本土防衛の「捨て石」にされた沖縄の人々の辛苦は続くばかりだ。
 

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