井上ひさしさんの三女が触れた長崎原爆の実相 被爆地巡るドキュメンタリー映画を上映 8月には長崎でも 

「長崎追想」上映後、平和への思いを語った麻矢さん(左)と松村さん=東京都渋谷区、紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

 劇作家の故井上ひさしさんが生前、作品の舞台として構想した被爆地長崎を三女の井上麻矢さんが訪れ、被爆の実相に触れながら亡き父への思いをたどるドキュメンタリー映画「長崎追想 父・井上ひさしへの旅」の特別上映会がこのほど、東京都内であった。上映会後、麻矢さんは、現地で出会った被爆した女性の壮絶な生きざまなどに言及し「長崎を最後の被爆地に」という作品に込められた思いを語った。作品は8月12日、長崎市平和会館ホールでも上映される予定。
 麻矢さんは現在、ひさしさんが旗揚げした劇団「こまつ座」代表を務める。特別上映会はこまつ座40周年を記念して企画した。
 ひさしさんは生前、広島原爆を題材にした戯曲「父と暮せば」と対になる作品として長崎が舞台の「母と暮せば」を構想。亡くなった後に映画化された。
 ドキュメンタリー映画では、麻矢さんが原爆資料館や浦上天主堂などを訪ね、関係者や被爆者らと面会し、被爆の実相に触れる。
 監督は松村克弥さん、語りは長崎出身の歌手で被爆者でもある美輪明宏さんが担う。松村さんは、長崎原爆による被爆とカトリックの信仰について描いた映画「祈り-幻に長崎を想(おも)う刻(とき)」(2021年公開)などの監督も務めている。
 上映会後、麻矢さんと松村さんのトークショーがあり、麻矢さんは、息子を持つ被爆者の女性との出会いに言及。「自分の息子に対して『被爆してごめんね』という思いをなぜ母親が抱かなければならなかったのか」と語りかけ、「長崎を最後の被爆地にという松村監督の思い」が胸に迫ったと心情を明かした。松村さんは「女性の話は衝撃的で、戦争への怒りを感じた。カメラを回しながら心が震え、涙が出た」と撮影を振り返った。
 麻矢さんはロシアのウクライナ侵攻にも触れ「(原爆の悲劇は)今まさに身近な問題になってしまった。広島、長崎は世界中の人々が忘れてはならない地」と話した。
 8月の長崎での上映会では、被爆体験の朗読会や被爆者とのトークも企画。時間や料金は現時点で未定。市平和会館ホール以外でも、希望があれば各種施設での上映会開催を受け付けるという。問い合わせはこまつ座(電03.3862.5941)。

© 株式会社長崎新聞社