【澤田知可子インタビュー】洋楽の名曲を日本語でカバー!プロデュースは松井五郎  澤田知可子最新インタビュー 第2回

『【澤田知可子インタビュー】21世紀に残したい泣ける名曲「会いたい」を歌い続けて…』からのつづき

澤田知可子が新たなライフワークとして掲げる洋楽の日本語カバーアルバム『Vintage』『Vintage II』。インタビュー第1回では、このシリーズを始めたキッカケを尋ねたが、この第2回では、実現までの数々の苦難や、実際に収録されている楽曲の魅力に迫ってみたい。

歌い継がれるヒット曲は物凄いパワーを持っている

―― 澤田知可子は、以前から1993年の『UTATANE』、2002年の『Boys be・・・』、07年の『花心』、そして2009年の『歌姫ものがたり』と多くのカバーアルバムをリリースしてきた。オリジナル曲を歌う時との違いはあるのだろうか。

澤田知可子(以下澤田):私は、歌を歌うことで自分の色を入れるという表現方法が、とっても素晴らしいと思っているんです。だから、カバーアルバム自体大好き! そして、カバーアルバムは数々のヒットソングを集めることが出来るのも魅力。ヒット曲というのは、物凄いパワーを持っているんです。歌い継がれる楽曲を歌うことによって、ある種のパワースポットが生まれる。スタンダード・ナンバーというのはそういう境地なんですよね。

もしかして、100年後に『会いたい』が残ってくれていたら、それは100年前に生まれたクラシックのようになるということ。歌手たちが歌い継いで次の世代にバトンを渡していくということでもあるので、カバーアルバムは邦楽も洋楽も大好きなんです。

――『Vintage』を実際に聴いてみると、その聴き心地の良さに思わず聴き惚れてしまう。前述のように、もともとカバーが大好きというのもあるだろうが、言葉も歌声も実にスムーズで、洋楽の日本語カバー特有の“なんか引っかかる感じ”がないのだ。ディスコやユーロビートなどの日本語カバーなどは、逆にその引っかかりがあるからこそ、ヒット曲が多いのかもしれないが、ここでは往年のポピュラーソングが情感たっぷりに歌われた日本語カバーがまったく自然に聴けるのだ。

澤田:嬉しいです! 洋楽の日本語カバーは、昭和の頃から沢山ありましたが、オリジナルとはまったく違う言葉が使われているのが意外に多いんですね。ですから、『Vintage』シリーズの大きなテーマとしては、洋楽の聴感に寄り添った違和感のない日本語詞を乗せるということ。まさに、そこが松井五郎先生の腕の見せ所で、非常に丁寧に作ってくださいました。

―― 実際に歌詞を追ってみても、英語の直訳にはなっておらず、聴感の良い言葉が並んでいる。

澤田:松井先生が今回なさった作業としては、まず原曲を日本語に直訳するんですね。そして、この直訳されたものの中からメロディーに当てていく時に、この世界観を壊さずに自分なりの言葉をチョイスした日本語の訳詞にするんです。

そして、今度は五郎先生の言葉を英語に直すという、三段階の作業を経たものでCD化への許諾を申請しているのです。これは、本当に膨大な労力が必要な企画で、正直なところ、私ではなく、別のヒット常連歌手がやっていたら絶対に人気が出る企画じゃないかって思うんです。

それを澤田知可子でやってもらえるなんて、嬉しいような申し訳ないような…。だから、この『Vintage』シリーズは、一人でも多くの皆さんに知っていただきたいと思っていますし、私自身もこの企画で “歌手・澤田知可子” という新たな道を開ければと思っています!!

松井五郎ならではの日本語への徹底したこだわり

―― その膨大な作業量の許諾申請のうち、どれほどの楽曲が採用されてきたのだろうか。

澤田:最初に出した10曲のうち、3曲ほどはNGでしたね。訳するにあたって物語のニュアンスが変わったということでNGが出たのもありますし、日本語で歌うこと自体NGというものもありました。今回の訳詞は、どうしても日本語にすると不自然になるキャッチフレーズ的な英語以外は、すべて日本語に直しています。

―― よくある日本語カバー曲は、サビを中心にオリジナルの英語をそのまま歌うものも多い中で、今回の特徴としては、よほどキャッチーなキーワードを除き、極力ほぼすべての英語詞の部分が日本語に訳されている点だ。その日本語への徹底したこだわりも、松井五郎ならではだろう。本シリーズは、松井自身が、プロデュースも担当しているのも大きなポイントだろう。

澤田:松井先生には最初の頃、“すみません… 歌いすぎないで” とよく言われ、淡々と歌うように指導いただきました。気持ちが入り過ぎちゃうので、お客様がその世界に入り込めるような余白のある歌い方にしてください、と。それは、私に限らず、いろんなアーティストにお願いしていらっしゃるそうです。私も、バラードシンガーとして、泣かせようとアピールしがちなので。そして、選曲に関しても、基本的に松井先生が、本作に合いそうなものを次々とピックアップしてくださっています。

―― ちなみに、Spotifyで配信されている同アルバムの人気曲を見てみると、第3位がライチャス・ブラザーズのバージョンが有名な「Unchained Melody」、第2位がナット・キング・コールやエルヴィス・コステロなど数々の名カバーが存在する「Smile」、そして第1位はカーペンターズのバージョンが大ヒットした「(They Long To Be) Close to you」となった。特に、この「Close to you」は、♪Why do birds suddenly appear. Every time you are near? の部分が、♪何もない空の羽のように と歌われており、その自然な日本語から同じ1970年代の荒井由実や大貫妙子などの楽曲と同じテイストに感じる人もいそうだ。

澤田:これは、最初に許諾をいただいた楽曲でした。カーペンターズは、何曲でも歌いたいくらい大好きなので、この訳詞もとても自然ですよね! 実際、このアルバムは心地よいBGMに仕上げていきたいと思って作っているんです。澤田知可子のボーカリストとしての主張はむしろいらないくらい。こんなにも素敵な言霊が乗った曲を心地よく聴いてもらうために、優しく優しく、まさに “大人の子守唄” というのが根底にあるんです。

―― また、ジャニス・イアンの「Love is Blind」を、♪泣いていれば夜明けは来てくれますか~という歌詞が入るなど、ここまで徹底して日本語でカバーすると、まるで弘田三枝子「人形の家」や奥村チヨ「終着駅」あたりと似たテイストになるのも興味深い。

澤田:私も昭和歌謡の暗いバラードもジャニス・イアンも大好きで、「Love is Blind」は絶対に歌いたいと思っていたんですよ。だから許諾が下りて嬉しかったです!

―― さらに、ギルバート・オサリバンの「Alone Again」は♪Alone Again Naturally の部分を、♪涙になったり~ と訳すなど、原曲に慣れていたリスナーにも十分な配慮がなされていて、思わず唸らされる。

澤田:お見事ですよね!『空耳アワー』かと思っちゃったぐらい(笑)。こういった部分を楽しんでもらえたら嬉しいですね~。『Alone Again』は、物語性がある点では『会いたい』にも通じるところがあって、「いじめられっ子がひとりぼっちなんだよ」ということをこんなにも知的に表現しているということに共感しながら歌いました。松井先生の訳詞によって、“えっ、こんな歌だったんだ!” と驚きました。

―― 他方、ベッド・ミドラーの「The Rose」は「愛は花、君はその種子」として、ホセ・マンソ・ペローニの「Moliendo Cafe」は「コーヒー・ルンバ」として、既に日本語カバー自体がスタンダード化しているほどの人気曲だが、それを新たな日本語詞で歌うのはどういった心境だったのだろうか。

澤田:ここが実は松井先生のこだわりで、あらためて正統派となる訳詞が作りたかったそうなんです。「The Rose」の方は、私も09年の『歌姫ものがたり』で「愛は花、君はその種子」として歌っていたので、言葉の乗せ方が変わると雰囲気が随分と変わりましたね。ゴスペル調のコーラスは、Unlimited Toneという男性3人組で、私自身が、彼らの声の大ファンで、オファーいたしました。また、「Moliendo Cafe」の方も、「コーヒー・ルンバ」という歌謡曲ではなく、よりオリジナルのテイストに寄せたボサノバ調に仕上げました。

大切に手売りしていきたいアルバム

―― 全14曲中、特に苦労したのはどの曲だろうか。

澤田:一番難しかったのは「Over The Rainbow」ですね。やはりミュージカル『オズの魔法使い』などで、皆さんが知っているからこそ、簡単なようで、丁寧に言葉を紡いでいく感じが難しかったです。なので、よりいっそう優しく歌うよう心掛けました。

―― たくさんの時間をかけて作られたアルバムだが、2022年はコロナ禍もあって十分に知られていないのが歯がゆいところだ。

澤田:私の場合は、コンサートをたくさん開いて、そこでサインをしながら即売会でCDを買っていただくというスタイルなんですが、(コロナ禍で)それがなくなって、実質まだまだお客様に届いていない状況です。今、CDを出すのが大変な時代ですが、私は、まだまだパッケージが大好きなので、大切に手売りしていきたいと思っています!

確かに、この繊細な音作りや、自然に聴こえる言葉の紡ぎ方、そして澤田の柔らかな歌声は、パッケージだからこそより深く伝わることだろう。次回は、2023年6月28日リリースの『Vintage II~時がめぐるなら~』の魅力や、今年還暦を迎える澤田自身のビジョンにも迫ってみたい。

■ Vintage(2022年3月9日発売)
1.(They Long To Be)Close To You
2.もしも… ‒If ‒
3.Alone Again(Naturally)
4.月灯りのワルツ‒The Last Waltz‒
5.The Windmills of Your Mind
6.Raindrops Keep Fallin' on My Head
7.You Needed Me
8.Love is Blind
9.Unchained Melody
10.Moliendo Café
11.Moon River
12.Smile
13.Over the Rainbow
14.The Rose

■ Vintage II~時がめぐるなら~
1.青春の輝き I Need to Be in Love
2.そよ風の誘惑 Have You Never Been Mellow
3.落葉のコンチェルト For the Peace of All Mankind
4.雨の日と月曜日は Rainy Days And Mondays
5.ひまわり Loss of love
6.So in Love
7.無造作紳士 L'aquoiboniste
8.若葉のころ First of May
9.The Water Is Wide
10.恋の面影 The Look of Love
11.I Wish You Love
12.A House Is Not a Home
13.時がめぐるなら~Solitude
14.会いたい~2001ストリングス・バージョン
15.As Time Goes By

カタリベ: 臼井孝

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